紙束
□影と灰色
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月森は足を止めた。つられて俺も立ち止まる。
「いや、教えてくれるならスケジュールだけでいいじゃん。毎回ペルソナの列挙から始まんのは何か意味があんのかなーと」
動揺が滲む表情を珍しいと思いながら言うと、月森はすぐに動揺を消して歩き出した。
「……お前に知ってて欲しかったんだ」
「へ?」
「俺が着けてるペルソナを、花村に知っててもらおうと思って」
どういうことだ?
「……えーと。意見が欲しいとかそういうこと?」
「……そうだな。うん、そうかも。なぁ、例えばアリスが敵だったとしたら、お前はどう戦う?」
「へ?」
唐突な問い掛けに目を丸くする。
アリスってあれだろ?微笑んで《死んでくれる?》って囁かれただけで、闇耐性のない敵は跡形もなく吹っ飛んじまう、可愛くも恐ろしい死神。
もちろん俺も一瞬で吹っ飛ぶ組だ。
「えー……そうだな……まず天城にテトラジャかけて、」
「誰もテトラジャ持ってないだろ」
「お前が持ってんじゃん」
月森はするりと視線を逸らした。
「……よく使うペルソナには攻撃スキルしか付けてないんだ」
「あー……」
そうだった。コイツは意外と荒っぽい戦い方をするヤツだった。
防御系やバステスキルは使わず、全員でとにかく攻める。身体能力を上げるスキルをわずかに補助に使うのみで、後はひたすら力でゴリ押しだ。
「じゃあマカジャマでスキル封じて」
「だから持ってないだろ」
「それもかよ!仕方ねぇなー。じゃあ一回は食いしばって耐えるとして、あとはホムンクルス大量に持ってってー……」
アリス攻略法に夢中になった俺がよっぽど楽しそうに見えたんだろうか。月森はその後も「コウリュウと戦うとしたら?」「ヨシツネだったら?」と、テレビに入るとぽつぽつ議題を出すようになった。
俺はそのお題に頭をフル回転させ、時々月森と口論寸前のやり取りをしながら、最善と思われる策を考えていった。
なぜ月森がそんな『お題』を出したのか、そのときの俺は全く理解していなかった。