紙束

□影と灰色
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「最近月森おかしくね?」

 冬休みに入る直前。

 終業のチャイムが鳴ってすぐ、一条たちと約束があるからと月森は弁当箱を抱えて出て行った。
 この寒いのに恐らく屋上へ向かうんだろう。寒いの苦手なクセに。なぜだかあいつは、最近教室で――てか、俺たちとメシを食わない。
 見慣れた背中を見送りながら口をついた独り言に、里中が怪訝そうに俺を見た。

「なに、急にどしたの?」
「いや、なんつーか……上手く言えないんだけど」

 真っ直ぐ伸びた背中が消えていったドアを見る。

「月森君、疲れてるのかな。その……いろいろあったし」

 里中と一緒に弁当を食っていた天城がそっと視線を伏せる。



 文化祭からこっち、目まぐるしい日々が続いた。
 街全体がどんどんヤバくなる焦りから、テレビに入る回数は自然と増えた。
 特に月森はしんどかったはずだ。体力的にも……精神的にも。

 事件はついこの間終わった。
 気を張って気付かないふりをしていた疲労が一気にきてるのかもしれない。
 それに、月森の大事な人たちはまだ帰ってきていない。体力的にキツいときに、誰もいないあの家に帰るのはやっぱり堪えるんだろう。

 そういやあいつ、朝からちょっと顔色悪かったような――



「花村ー、月森の席ってどこ?」

 聞き慣れた声に呼ばれて振り返ると、扉の脇で一条が手を挙げていた。

「おっす。ここだけど、どうした?」
「さんきゅ。荷物取りに来た。月森早退するから」
「え!?」

 思わず声を上げる。里中たちも顔を上げた。三人分の視線を浴びて一条がたじろぐ。

「いや、あいつ、弁当食ってる間にどんどん顔色悪くなってさ。保健室連れてったら、今日は帰れって言われてた。今は長瀬が付いて保健室で寝てる」
「具合は?悪いのか!?」
「微熱。本人は大丈夫だって言ってんだけど……大丈夫じゃないよなぁ、あれは」

 見た目的に。と呟いて、一条は手早く荷物を月森のカバンに突っ込んでいく。

「先生は寝てれば大丈夫だって言ってた。……うし、こんなもんか」

 コートとカバンを取り上げて、じゃあな!と一条は出て行った。


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