紙束

□影と灰色
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 顔を見合わせた俺たちは、無言のうちに大人しく残りの授業を受けることを決めた。月森を理由に俺らが授業をサボるなんてマネ、月森が許すはずがないからだ。
 放課後を待ってじりじりと机にかじりつき、ホームルームが終わった瞬間学校を出た。



 ――嫌な予感がした。ここんとこ様子がおかしかったし、何より。あいつがぶっ倒れるなんて、今まで一度もなかったのに。



 天性の運の悪さがそうさせるのか、俺の悪い予感は結構当たる。ちょっと様子を見に行った方がいいかもしれない。

 こんな日に限ってケータイを忘れた自分に心底ガッカリしながら家へ急ぐ。ケータイを回収したらすぐに月森に連絡してみて、それから――

「……あ」

 玄関の扉を開けてから、しまったと思った。すぐに脳天気な声が聞こえてくる。

「あ、ヨースケ!おかえりー!」

 美少年モードのクマが出迎えにきた。……忘れてた。こいつがいたんだった。

「今日は早いクマねー」
「あ、あぁ。ちょっとな」

 クマと一緒にリビングへ向かいながらこの場をどう切り抜けるか考える。



 ハッキリ言って、体調の悪いときにクマの相手をするのは、かなり、ハンパなく、疲れる。
 テンションがやたら高い上に感覚がズレているクマだ。本人に悪気はないものの、大抵の行動は裏目に出る。俺が軽く風邪を引いたときもいろいろやらかした。(結果俺の風邪は長引いた)
 月森の不調を知ったら、一緒に行くと言い出すに決まってる。あのしんどさを月森に味わわせるのはさすがに申し訳ない。

(気付かれずにどーやって抜け出すかなー……)



「ねー、ヨースケー」

 考え事をしている内にココアが出来たらしい。マグカップを二つ持ったクマがテーブルに着いた。

「お、サンキュ。何?」
「センセイはどうかしたクマか?」
「ぶ、」

 口に含んだココアを噴きそうになり、思い切りむせた。

「げほ…鼻に入った……!」
「なにやってるクマ?」
「ほっとけ!つか、何で知ってんだよ!?」
「ム、クマのサーチ能力、ナメたらあかんゼヨ!前よりハナはきかなくなったけど、知ってる人がテレビの中にいるコトくらい分かるもんね!」



 ――思考が停止した。



「……は?」
「クマ今日はお呼ばれされてないのに……。センセイはクマじゃない誰かを選んだのね」

 ヨヨヨ、と大げさな泣き真似をするクマ。

「……テレビに、誰が入ってるって?」
「ムー!ヨースケ、クマのハナシ聞いてなかったクマね!プンプンよ!」
「いいから!誰が入ってるって!?」

 急に大きな声を出した俺に、クマが戸惑った顔をする。

「セ、センセイがテレビに入ってるクマ」
「いつから!?」
「ヨースケが帰ってくるちょっと前……ちゅーか、なんでクマを怒るワケー!?クマのハナシ聞いてなかったヨースケが悪いんでしょーが!」

 ……何だよそれ。だって、そんなワケない。

「……ヨースケ?」

 考えるより先にマグカップを置いて立ち上がっていた。
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