紙束

□傷口
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平気そうに振る舞ってはいるが、いつも健康そうに色づいているアニスの顔に今は全く血の気がない。
ティアとナタリアは治療で体力を消耗したのだろう、表情に隠し切れていない疲労が滲んでいる。
涼しい顔をしているジェイドも、その軍服を染めているのが返り血だけということはないだろう。

(帰り道、魔物に出くわさなきゃいいけど)

仲間たちの様子を見て、ルークは小さく苦笑する。
これではいつも通りには戦えない。一刻も早く宿で休息をとりたい。

もちろん、もし魔物に襲われたとしても、負ける気など毛頭ないが。

(もう、これ以上みんなにケガなんかさせない)

ルークは感触を確かめるように左手を握りしめた。
筋肉が収縮し、手首の傷口からわずかに血が流れる。
ゆっくりと開き、軽く腕を振るって、ひとつ頷く。

まだ動く。

顔を上げ、アニスたちの方へ歩き始めた。

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