紙束

□傷口
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「ルーク」

ガイの横を通り過ぎると、不意に肩を叩かれた。

「なに……、!?」

振り向くと同時に口に何かを押し込まれた。
驚いて吐き出そうとするが、自分より若干大きな手がそれを許さない。

薬物特有の苦味をごまかすように人工的な甘酸っぱさをまとった、弾力のあるまるいもの。
舌の上で転がるものの正体を悟って、ルークは仕方なく咀嚼した。
そのまま飲み下すと、ガイは満足そうに笑ってようやく手を離した。

「傷、完全に塞がってなかっただろ」
「あれくらい……つーか今のって、ガイの分のグミだろ」
「いいんだよ。俺は平気だから」
「どこが」

右足をにらまれ、ガイは困ったように笑った。

俊足が自慢の彼の右足は、すね辺りの肉がえぐられてなくなっている。ブーツが血まみれだ。

「ちゃんと回復したさ。大丈夫だ」

ルークは不満そうにガイをにらんで、やがてふいと顔を逸らした。

「……早く街に戻ろう」
「あぁ」
「アニスが抜けた分、俺が動くから」
「分かった」



アニスたちの方へ歩いていくと、後ろから苦笑しながらついてくる気配。
本当に回復はしたのだろう、歩くのに支障はないようだ。だがいつもよりスピードが遅い。

「……平気だ、大丈夫だ」

少しずつ距離が開いていくガイを目だけで振り返って、前を見る。
満身創痍の仲間たちが、何でもないふりをしてふたりを待っていた。

「……そればっかり、」

そっとこぶしを握る。
力を込めても、もう傷口から血は出なかった。



(そればっかり、なんて。一体どの口で言ってんだっつーの)


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