紙束
□鳥籠のトリ
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【side:N】
僕はドアノブを握ったまま固まってしまった。
開いたドアのすぐ向かい側。その壁際に、ずぶ濡れの人影がうずくまっている。
どれくらいそこにいたのだろう。黒髪から滴る水滴は、床に小さな水たまりをつくっていた。
ひざをきつく抱いて、額を押し付けて小さくなっているのは、
「………トリス?」
僕の声にピクリと肩が揺れて、ゆっくりと顔が上がった。
透き通った大きな目が僕を映す。
「…………ネスティ、」
か細い声を聞いた瞬間、安堵の思いが頭を巡った。しかしそれはすぐに怒りへと変わっていく。
「君はバカか!?こんな時間まで何をしていた!師範がどれだけ心配したか」
「ネスティ。」
静かな声。
僕は思わず口をつぐんだ。
正面から見つめてくる大きな目。澄み切った瞳。
「あのね、外に出られないの」
―――澄み切ってて、何も映さない大きな目。
「外に出られないの、ネスティ」
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