novel

□守護者伝説 起2
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「アクアウィップ!!」

リフィーが水を曲線状に描いて、
それを巨大化した昆虫のような
魔物群に向かって打ち放つ。


それでもしぶとく
生き残った二匹を
シャドウとライトが素早く斬り伏せた。



戦闘の終わった三人に
イーグルが駆け寄る。


「大丈夫ですか?怪我は…」


訊くまでもなく明らかに
リフィーが腕を切っていた。
出血量からして
傷が浅いとは言えない。


なのに彼女は、

「いーのいーの。舐めときゃ治る」

と女性らしさのかけらもなく言ったままに血を舐めとった。

それでもまだ止まらない。


イーグルはそれを見て
すぐさま詠唱に入り、

「エンジェルハート…」

治癒術で彼女にあった傷を消した。



彼が治癒術に長けていると知ったのはつい昨晩のことである。

昨日の戦闘で
ダメージを受けていた三人を、
一人一人丁寧に治していったのが彼であった。


ふぅ、と息を吐くと

疲労感とも安心感とも取れない汗を流し、腕で額から伝わるものを無造作にぬぐい取って心配そうに見つめるリフィーに対し、

まるで
「私は大丈夫ですよ」
とでも言うかのように
笑顔を見せた。


「…自分が一番疲れててどうすんのよ」


リフィーがそっぽを向いて
わざとらしく頬を膨らせた。


「ったく、町はすぐそこなんだから休みゃいいだろ、休みゃー」


言いながらシャドウが
葉巻に火をつける。


「そうだな、もう目の前なんだし」

ライトが続けて言い、
睨みつけるように後ろを振り返った。


「特にイーグル!!お前はもう休め」

急に指を差され、
小鳥のようにびくっとなった彼は小さく首を縦に振った。


5人は町へと歩みをよせた。






















商業店よりも作物の畑の方が多い、
ひとくちに言うならのどかといった雰囲気の町並を5人はぶらぶらと歩いていた。


「おーい、そこのお嬢ちゃん!!」

声をかけられたと思い、
リフィーが長いツインテールを
左右に揺らして後ろをむくと、
そこにはいかにも怪しそうな中年の男性が、なにやら高級そうな壺らしきを両腕で抱えて立っていた。



「お嬢ちゃ〜ん、この幸運を呼ぶ壺、99万セクタでいらん?」

男がニッと笑って金歯を見せる。


明らかな悪徳商法だ。
後ろで聞いてて不快感を抱いた
ライトが男に文句をつけようと
すたすた歩いていくと、

リフィーが

「意外と安いわね…」

と言い、顎に手を持ってきて首をかしげた。


拍子抜けしたライトが
思わずコケそうになる。


男もリフィーの爆弾発言に
あんぐりと口を開けて固まったままであった。


「オイ待てや!!!どこが安いんだどこが…」

「おお落ちついて下さい!!すみません…」

ライトが騒ぎ立てると
仲裁にイーグルが割って入り、


(リフィー様は金銭感覚が普通の方と比べて特殊なんです)

と小声でライトに言った。


言われてみれば大金持ち。

確かにそうだ…
と頷いてネルに視線を向けようとしたが、いつのまにか彼女がいなくなっていた。


「…ネルは?」

葉巻をふかしているシャドウに尋ねると、

「さぁ、オレは知らんね。どっか行ったんじゃねぇ?」


とあっさり答えた。















その彼女は町中をふらふらと歩いていた。


特に意味はなかったが、
今までに見たことのない、新しい場所には興味があった。



立ち止まってふと目を閉じ、
ライトと出会ってからの光景を
頭に浮かべてみる。

が、それは途中で中断された。


背中に何かがぶつかったから、である。

勢いで彼女は体勢を崩し、
そのまま前へ倒れた。



「あっ、悪ィ、大丈夫か?」

なにやら男らしい声。
だがライトほど低くはない。


顔を上げてみると、目の前には
顔立ちのいい少年が立っていた。

黒髪でサイド以外の長さはベリーショート。

胸元にベルがついたピンクのジャケットが光を受けて輝いて見える。



「立てるか?」

と言って手を差し伸べるその姿は
ライトと同じだった。


「ライト…?」

思わず声に出して
言ってしまった。

当然少年は
「は?」
といった表情になる。


ネルを立ち上げたあと、
彼は

「どこの誰と勘違いしてんのか知らんが、オレは女!!
名前はピアナ・アルベラータだ。
ライトじゃねぇ!!」


胸に手を持ってきて主張する。

彼ではなく彼女。
少年ではなく少女だった。

だが見てくれも話し方も
男そのものである。



「ライトはどこ?」

ネルはそれでもマイペースに続けた。


「知るか!オレに聞かれても…」

人違いをされて不機嫌そうに
横を向いた彼女だったが、
ふと目に光が宿った。

どうやらこれでピンときたらしい。


「お前、迷子かよ…」


当然ネルは迷子の意味を知らないので、何を言われたのかわからず首をかしげた。

ピアナが頭をくしゃくしゃとかきむしる。


そしてふっきれたように、

「わかった!探してやる!!
そのライトとか言う奴、探してやるからついて来い!!」

と宣言し、再びネルに手を差し伸べた。
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