creation

□雷風:海と哀愁のうた (烈火)
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「うーみーは、広いーな、大きーいーなー…」

「くすっ。どうしたんですか風子さん。急に、童心に帰りたくなったんですか?」

横から、陽によく映える黒髪を携えた男が話しかけてくる。

その黒髪は海風に当たって穏やかになびき、女性である自分より柔らかな調べを刻む。

「…むぅ。べっつにいいじゃん!!こう、歌いたくなる時って、あるでしょ!?
こう、こんな綺麗な海を見た時は……」


ついつい、ツンと尖った答えを返してしまう。

言ったあとは、両手を広げ、大空を自由に飛び回るうみねこを受け入れるようなポーズ。

夏休みに日焼けした肌が、
中秋をまるで感じさせない太陽の光をうけて輝いた。


一方の彼は自分よりもずっと美白で、女性である自分からすれば正直羨ましい。

親友の柳にも相談はしてみたが、彼女からは 「風子ちゃんは、焼けてるくらいが可愛いよぉ」 と曖昧な答えを返されてしまった。


自分はがさつで、喧嘩っ早くて、男勝りで、隣にいる雷覇くんとは性別を逆に見られていてもおかしくはない。


体型と身長だけが、
彼らの男女を区別するものであった。


その彼は、口もとに手を当てて上品に笑うと、

「そうですね。では私も…」

「ふぇっ?」

「うーみーは、広いーな、大きーいなー…つーきーはー昇るーし、陽はしーずーむー……」

澄んだ彼の声に合わせるように、波が引いては押し返し、BGMの役目を立派に果たしていた。


いつになっても、
潮をたっぷりと含んだ水は聞いていて飽きはしない。


「風子さん」

「へっ、な、何?」

「このあとの歌詞、なんでしたっけ?」

「えっ?」

笑顔で突然そう訊かれ、変な声をあげてしまう。

その笑顔がたまらなく愛おしくて、思わず殴って泣き顔に変えてしまいたいくらい。


私は慌てて、手を後ろに持って行くと、作り笑いをして、

「あははは…私も、わかんない」

とごまかした。

「そう…ですか……」


雷覇くんは、寂しそうな笑顔を魅せると、大きくて広い海を眺めていた。


彼が海という大きな鏡に映しているのは、遠い遠い世界へと行ってしまった、
烈火の異母兄のことなのだろうか……


私は彼の手にそっと手を回すと、優しくふっ…と寄り添った。



「じゃあ、わからない者同士、歌おっか、ね?」

「…はいっ」


私の声と彼の声が重なる。


私はそれに、ささやかな嬉しさを感じていた。

彼がいないぶんを、
私が代わりに埋めようと、
想いを込めて―――――
 

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