creation

□光と影(クロビ)
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ある日突然、自分の隣にいた奴が消えた。

家の都合で引っ越したらしい。

初めて感じた、胸にぽっかりと穴が開く感覚。


「……………ふぅん」

まず口をついて出たのがこの言葉だった。

口に出してはみたものの、直後に何とも言えない喪失感に襲われる。

"そいつ"がどんな人物だったか。


一言で表すならば、光のような存在だった。

見た目は中性的な顔立ちと肩に少しかかるぐらいの長さをした胡桃色の髪。

薄い眼鏡を掛け、服装はシンプルにYシャツとパンツと彼の機体色でもあるオレンジのベスト。

抑揚の強い関西弁が印象的だった。


そんな、世間に言わせれば"美形"に分類される彼だが、実は大食いというスキル持ち。

そのため食に関しては貪欲であり、武勇伝が数多く存在する。

そして………
自分…巻レイジのライバルであり、親友と呼べる存在だった。






――数週間後

『そこまで!!鷲村選手、月輪選手を遥かに上回るタイムを叩き出しました!!』

『よっしゃあ!!!』

でかでかと表示された画面いっぱいに、ガッツポーズをする奴の姿が映る。

直後、恥ずかしかったのか口を抑えてすぐさまそっぽを向いた。


アイツ、鷲村ユキヒデは東へ引っ越した直後、東ブロックのトップへと上り詰めた。

元々東は西ブロックと比較するとレベルはそれほど高くないし、今の奴はあれから更につけている。

それも当然、だろう。

さらに彼は既に友達も作ったらしく、よく3〜4人でつるんでいる姿を見かける。


それに比べて、自分は…

横にいる群青色の髪を携えた少年に、ちらりと目をやる。

名前は白銀スバル。

自分より年下だが、実力は自分と鷲村を凌駕していた。

いつかは忘れたが、ふらりとやってきて無表情のまま記録を抜き去ったのは、よく覚えている。

目つきの悪さと誰に対しても心を開かないその姿勢のせいで、寄りつく人間などいなかった。

彼の相棒、レブ=ドラヴァイスは、彼に対し『王者の風格か』と言う。


彼のせいで、自分は万年2位という屈辱を味わっていた。

どんなに努力しても追い越せない壁。

苛立ちが募る。

白銀に対しても、鷲村に対しても…。






以前、鷲村とこんな会話をした事があった。

「オレとレイジって、光と影みたいやと思わへんか?」

無限に買ったハンバーガーを貪りながら、鷲村が話しかけてくる。

「…いきなり何だよ。オレが影だとでも言いたいのか?」

「せや」

即答でそう言われ、頭に血が上る。

「…ッ!!テメェ!!」

思わず立ち上がって胸ぐらを掴む。

奴は紫色の瞳を何回かまばたきさせると、フッ…と笑った。

「そうゆう意味ちゃうて」

「?」

頭に疑問符を浮かべていると、奴は新しくハンバーガーを取り出した。

「せやから、光って、その後ろに必ず影ついてるやん。影は影で、光がのうなったら存在せぇへん。つまり、お互いがお互いに必要とする存在や、ちゅうこっちゃ」

屈託のない笑みを浮かべてそう話す鷲村。

自分は誰が見ても呆れた表情を作りながら言い放つ。

「何だそれ。何でオレが、そんな哲学みたいな話聞かなきゃなんねーんだよ。お前はオレの母親か?」

奴はこちらを見て暫し考えると、優しげな笑顔を作った。

「んー、そうかもしれん…なーんてな♪」

言い終わる頃には、ハンバーガーは全て包み紙のみとなっていた。





『クリア!白銀選手、トップの名に相応しい、素晴らしい記録を残しました!!』

もの思いに耽っていた頃、
いつの間にか白銀は自分の出番を終わらせていた。

相変わらず自分のずっと上をいっている。

取りつく島もなく、奴はとっとと退場した。


「………………」

自分は、言葉を失った。

悲しい気分になった。

東西で、アイツと離れただけで、ここまで違うものなのか…


自分の手を見つめながら、レイジはこう呟いた。

「…光を失ったら、影はどうすりゃいいんだよ…」

寂しげに背を向けると、レイジは静かに退場した。
 

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