creation

□美女と野獣(スマイル)
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星空みゆきは、悩んでいた。

机に顔を乗せて、薩摩芋色をした頭に手を抱えて。

時刻は夜7時過ぎ、普段ならば夕食を済ませ勉強をする頃合いなのだが、どうもテキストに手がつかない。


キャンディは、みゆきの横で静かにすやすやと寝ていた。

パーマのような金髪を二つくくりにした、みゆき自身が実際ぬいぐるみと間違えた可愛らしい生物。


この妖精キャンディが現れてから、彼女の周りでは次々と異変が起こった。

転校初日にいきなり不思議な図書館に迷い込んだかと思えば、
その直後狼に襲われ変身し、
彼女は普通の中学生から一気に『世界を救うヒーロー』と化した。

周りの友達もこの中にどんどん入っていき、
気づけば5人で敵に戦いを挑んでいる。



だが、悩ましい所はそこではない。


最初、変身した時に出会ったオオカミ、名をウルフルン。

彼が彼女の頭をパンク寸前に追い込んでいる原因なのだ。

見た目はもちろん狼。

人間ではない。

…けど…

ガッシリとしていて逞しい体格、フサフサしてて柔らかそうな毛質、そしてあのセリフ。


『お前から食ってやるよ』


「だぁっ!!!違う違う!!!」

夜中だというのに近所迷惑も考えず叫んだ。

口では否定したものの、彼女の顔は真っ赤である。

違う、というのは、奴はみゆきが考えている理想の男性と大いにかけ離れているのだ。

彼女の理想は『白馬に乗った王子様』。

決して、陰湿で汚いオオカミさんなどではない。

だが、わかっていても時々無性に会いたくなるのだ。

特に、つい先日の修学旅行は連続して敵襲及び街中での戦いが繰り広げられたものの、
その時来た幹部はアカオーニとマジョリーナ。

"彼"ではなかった。

それがみゆきの心を締めつけた。


もちろん敵対している以上、
会えば喧嘩ばかりしている。

そもそも仲良くなどない。

いや寧ろ腹立たしい。

だが、高いところからこっちを見下すように笑っているその姿は、
憎らしく、そして愛らしかった。

「何よぅ、オオカミさんのばかぁ…」

腕をぎゅっと引き締めて肌に爪を食い込ませる。

あの胸に飛び込んだら、どれだけ気持ちいいのだろう。

あの肩に乗ってみたら、どれだけ高いところが見渡せるだろう。

あの尻尾に触れてみたら、どれだけ癒されるのだろう。


(きっと…フサフサしてて柔らかいんだろうなぁ)

想像が膨らみ、ついにみゆきの限界点を突破した。

胸が、どきどきする。


完全にのぼせたような状態で、みゆきは机に臥した。

ピンク色の瞳は微睡み、
今にも夢の世界へ行ってしまいそうである。

風呂に入ってないのに体が熱い。

心なしか、ドリルのように結んだ髪の毛がへたっているように感じる。

次に彼女は唇を動かして、こう呟いていた。

「会いたいなぁ…オオカミさんに…」
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