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□33、5話(クロビ)
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『さぁ、本戦出場の8名が決定したーっ!!
では休憩を挟んだ30分後、ウエストGP大会の本戦を始めるぞ!!』
これによって負けが確定し、鮫島カイトは落胆した。
西ブロックの岩場を舐めていた。
足場が険しいうえに東ブロックより広く、さらに迷路のように入り組んだステージなのだ。
当然ここでは体力がものを言うため、運動神経にはそれなりの自信があった彼も、さすがに疲労が隠せない。
このまま行けば、本戦の観戦すら正直言って危うい。
麦穂の色をした髪に汗が滴り、帽子が蒸れたため外した。
太陽は眩しくて暑い。
天高く輝く炎の塊が、今はとても憎らしく思えた。
落ちていた石を拾う。
「くっそぉーっ!!」
悔しさのあまり、それを太陽に向かって投げてみたが、結果は自分の額に返って直撃しただけだった。
頭を抑えてうずくまる。
「…カイト?何しとん」
その時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
そのままの体制で振り返る。
太陽色のベスト、やや長めの茶髪、メガネ。
一発で誰かわかった。
「ユキヒデ…。お前も今回は予選落ち?」
「見ればわかるやろ。やっぱり、途中のスペシャルタイムをうまく生かせなかったのがデカいわな」
「あれはずるいよな〜。ところでユキヒデ、オレ疲れて一歩も動けないからおんぶしてくんない?」
「ムチャ言うなや…。オレだって走り回って疲れとんねん。ホラ、立たんかい」
と言って彼は手を差し伸べる。
「けち」
カイトは、唇を曲げると彼の手をとって尻についた埃を払い、そのままユキヒデと並んで歩き始めた。
東ブロックで、鮫島カイトと親しい友人は4名いる。
中でも彼、鷲村ユキヒデとは元々東ブロックで雌雄を決する仲であった。
5人の中で唯一の12歳である彼は、東ブロックを引っ張っていくリーダー的な存在であり、どういうわけか彼の家はビーダマンの設備がとても充実している。
カイトにとっては、遅刻してもフォローしてくれるしライバルでもある、いい兄貴分的な存在だった。
「あ゙ーっ、でも悔しいなー」
腕を頭の後ろで組みながらカイトのほうから口を開く。
「体力には自信あったんだけどなー」
「そういや、運動神経はホンマええよなお前」
「あとビーダマンの実力もな。ユキヒデは?」
「オレ?学校のマラソン大会の結果でも教えたろか?」
「最下位?」
「そこまで悪うないわ」
冗談まじりにニヤけ顔で聞いたら、少し怪訝な顔をされた。
「じょーだん、じょーだん…」
笑顔でユキヒデのほうを見たら、彼は別の方向を見ている。
何事かと思って見ると、吊り橋の真ん中で小柄な少年が震えていた。
さつまいもの皮のような色をしたマゼンタの髪は、癖っ毛が強くパーマがかかっており、更に頭頂部は寝癖が跳ね上がっている。
時々ラインの入ったアヤメ色の上下服も特徴だった。
「キシャー…」
ふらふらと小刻みに揺れる橋の上でいつもの口癖を言う彼…。
4人の友達のひとり、蠍宮シュモンだった。
「おーい!」
大きく手を振りながら、注意をこちらに呼びかける。
「なーにしてんだよ、シュモーン!」
「キシャ!?お、大声出すなよカイト!!おおお落ちたらどうすんだよ!!」
この発言に、友達ながら正直若干引いてしまった。
付き合いは長いはずだが、知らなかった。
どうやら高所恐怖症らしい。
「…じゃあお前、何でそんなトコにおんねん」
隣にいるユキヒデが若干呆れながら尋ねてくる。
その質問は尤(もっと)もだ。
「こっからじゃなきゃ取れねーと思ったターゲットがあったんだけど、オウガに取られたんだよ!!」
納得し、顔を見合わせる2人。
カイトは目で 「どうする?」 と訴えかけた。
ユキヒデの眼鏡がキラン、と光る。
紫の瞳が窺えない…ということは、この時既に何かを企んでいるようだった。
「あーっ!橋の向こうに、ナツミちゃんがおるでー!!」
指差しながら言ってはいたが、完全に棒読みだった。
「キシャ!?」
当然ウソだが、彼は女子が大の苦手。
しかも、カケルの幼なじみである稲葉ナツミのことは、シュモンにとって天敵だった。
「キッシェェェェ―――――――ッ!!!」
彼は足場も後ろも確認せずに、一目散にこちらへと走ってきて勢いでカイトに抱きついた。
ユキヒデが"計画通り"と言いたそうな顔をしている。
「なんだよお前、離れろよ、気持ち悪い!!」
只でさえ暑いというのにシュモンの体感熱まで伝わってくる。
さすがに汗だくだったため頭を掴んでそのまま引き剥がした。
「はは早く行こうぜ!女子!女子が!!」
「冗談やってシュモン、ほな行こかー」
ユキヒデが苦笑いをしながら先を歩き出す。
シュモンは目を点にしながら、首をひたすら横に動かしていた。
状況を掴むのに、まだ彼の頭は追いついてないのだろう。
3秒経ってロードが完了したらしく、彼はハッと我に帰るとカイトに耳打ちをした。
「…ユキヒデってさ、ある意味最強だよな…」
「まぁ、な…」
開会式で、彼にからかわれて顔を真っ赤にしたレイジを思い出しながら、2人はひとつ年上の彼の背中を追った。
ようやく会場が見えてきたところで、談笑していた彼らも顔を引き締めた。
カイトが残念そうな顔を作ってため息をする。
「あーあ。出来れば今回も本戦行きたかったなー。アスカにさ、ドドドーッと仕返ししてやるつもりだったのに」
「今から言っててもしょーがねーだろー。見てろよ、サウスグランプリこそはぜってー…」
「ああ。必ず本戦へ行ったる。お互い気張ろうや。カイト、シュモン!」
「おう!!お前とも決着つけたいしな、ユキヒデ!」
「臨むところや」
「キシャ、何言ってやがる、このオレ様を忘れんな!」
というと3人は、互いに拳を作って軽くぶつけ合った。
『ではこれより、ウエストグランプリ本戦を始めるぞ!
3、2、1…ビーッ、ファイ!!』