creation
□ドレッドヘアー(クロビ)
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氷柱が道を塞いだ、薄暗い洞窟の中。
いや、正確には遺跡なのだが、作った人間が途中でここを見つけてそのまま道に繋げたのか、鏡のような氷の回廊はずっと続いていた。
ところどころ硝子のような透き通った氷塊が道を遮っているのは、乱入してきた黒渕バサラに妨害をされたからである。
彼の狙いはウエストグランプリから、ずっと龍ヶ崎カケルただ1人である。
スバルたちの所でわざわざ邪魔をしたのは、昨夜、アスカの友人が経営するホテルでアスカに警報装置を鳴らされ、うまく追い返されてしまったことに対する仕返しであり、そしてカケルの助けに向かわせないためであろう。
今ここにいるB-アニマルが出せるビーダーは白銀スバル、神扇アスカ、荒野グンの3人。
稲葉ナツミもこの場にはいたが、アニマルが出せず、さらに先ほど彼女は足を引っ張ったため、戦力外通告を受けていた。
いずれもバサラに敗北を喫した経験のあるメンバーだが、それでも全員、大会成績は上位を修めていた。
彼らが連続して戦えば、いくらバサラといえど体力は保たないだろう。
それを阻止するための妨害工作であった。
「…しかし、君はどうしてそんなにバサラに執着するんだい?」
アスカがグンの方を向きながら静かに言い放った。
かなり音量を抑えてはいたが、それでも洞窟、音が左右に反響している。
「やはり心配なのか?幼なじみだから…」
そう、グンはバサラとは幼少期からの付き合いであり、唯一の理解者。
B-クリスタルの破壊者ということもあって、WBMAの人間も、クロスファイトのビーダーたちも、彼に対しては警戒し敵意を剥き出しにしていた。
ところが、グンは違う。
「バサラはドラゼロスにいいように使われているだけだ」と主張し、彼を倒すのではなく救いたいと考えている。
そこまで友のために力を尽くせる彼を、アスカは不思議に思っていた。
尤もスバルは、東と西の対立の中で人のため、友のために行動を起こすビーダーたちの姿を散々見てきたため、グンのこともわからなくはないのだが、北ブロック出身のアスカはもちろんそんなことは知らない。
孔雀の羽の色をした碧い瞳は、グンのほうを向いている。
そのグンは一歩先を進んでしばらく考えると、口を開いた。
「…アイツには、何か支えが必要なんだ」
グンは、それから自らの昔話をし始めた。
バサラは小さい時から怒りっぽく暴走しがちな性格で、幼稚園、それから小学校でも問題児扱いされていた。
いわゆる、"悪ガキ"である。
それを止める保護者の役割を果たしていたのがグンであり、当然互いに衝突してボコボコに殴り合うこともあった。
そんな中、ビーダマンに触れたのが2年前。
『人を殴るよりいいだろ』とグンがバサラを説得して、2人ともパワータイプのビーダマンを使うこととなった。
しかし、問題があった。
グンは腕の力でショットをするビーダマンを使ったのだが、バサラは力を制御することが出来ずに、自らの握力で悉く機体を破壊してしまったからである。
グンの愛機を貸そうとしたこともあったが、バサラは「お前のを使っても意味がない」と拒否された。
結局、彼は再び暴力を繰り返すこととなった。
ビーダーと、そうでない人間。
それだけで簡単に差別化されてしまう世界だった。
グンはやりきれない気持ちを抱えたままアメリカンフットボールを始めてみたものの、やはりバサラのことが心配である。
親友だと思い込んでるのは自分だけかもしれない。
それでも良かった。
彼をこのまま、放っておくわけにはいかないから。
だが、出来るのか…?という不安もあった。
一年中冬の世界。
転機は、そんな中起こった。
「髪型ッスか?」
アメフトを始めてから半年、先輩から言われた一言にグンは反応した。
「うん。お前の頭、なんだか、落ち武者みたいでキモチワルイ」
「落ち武者って…」
この時まだ、グンは今の髪型にしていなかった。
縮毛のかかった黒い長髪であり、切るのも面倒なので時々輪ゴムでまとめているだけである。
先輩はボロボロのスポーツバッグからスポーツ系の雑誌を見せると、あるページを開いて見せた。
「変えてみろよ、多分似合うぞ?」
とからかい半分に笑いかける。
「これに…ですか?」
「うん。イメチェン。そしたら、お前がいつも話す幼なじみとやらに見せてみろよ」
「変えて…」
バサラのことが網膜にふと浮かぶ。
そうだ。
彼を変えたいのであれば、まず自分が変わらねばならない。
変えよう、自分を…
「ありがとうございましたー」
数日後、グンは床屋でドレッドヘアーに変えてきた。
固められた頭が少しだけ重い。
鏡を見ると、頭に巨大なタランチュラをそのまますっぽり乗せたみたいな髪型になっていた。
周りからは珍しいものを見るような視線を向けられたが、気にする必要などない。
その頭のまま、久しぶりに、地区大会に顔を出す。
相も変わらず雪化粧に彩られた景色の中。
いた。
特徴的な炎のような髪型と、参加している子供の中で1人だけ頭が飛び出ている長身。
「バサラ」
「ああん?何の用だよグン…」
そう言って振り返った瞬間、バサラは自分の頭を見てそのまま硬直した。
それから、肩を震わせてそのまま笑い出す。
「お前っ、なんだその、頭…ハハハハ…」
久しぶりに見た。
この男が、素で笑ってる姿、っていうのは…
「なんだ?どうしたんだよ」
腹を抱えて笑っている彼を見て、少しだけ気持ちが温かくなる。
「いやぁ…お前の笑顔を見たのは久しぶりだからさ」
「!」
バサラが目を点にした。
次に彼は、恥ずかしさを隠して場を立ち去る。
「ふざけたこと言ってんじゃねーぞ…」
と捨て台詞を残して、彼はそこから走り去った。
そして今。
彼は心の拠り所を見つけた。
それがツイン=ドラゼロス。
今の、彼の愛機である。
大会で再会出来たのは嬉しかったが、ドラゼロスが喋るという事実、それから彼が次々に問題を起こしているのを知って、グンはすぐに見抜いた。
ドラゼロスがバサラにつけいっていると。
心を開こうとすれば、もしかしたら目を覚ましてくれるかもしれない。
だったら…………
「オレは、アイツを助けたかった。だが、やろうとしても失敗しちまうんだ。
天宝院さんの時もそうだったが、人のために行動を起こすと大概空回りしちまうみたいで」
その話を聞いていたスバル、アスカ、ナツミの3人が顔を見合わせる。
最初に口を開いたのはアスカだった。
「それで?キミは結局、逃げるのかい?」
「逃げてなんか……」
「ならば立ち向かえ。今のキミは美しくない。僕を超えた時みたいに、ありのままの彼に想いをぶつけてみろ」
「!!………」
スバルのカバンに隠れていた、ドラヴァイスも口を挟んだ。
「グン。君は自分を変えたいと思ったのだろう?ならば弱気になる必要などどこにもないはずだ」
スバルが、一歩前に出る。
「ビーダーならビーダマンで物を言え」
「!」
2人と1機の言葉に、グンが目を丸くした。
「あれ見て!」
空気を読まないナツミが目の前を指す。
そこには、バサラが道を塞いだ瓦礫がまだ残っていた。
3人が腕のゲージにパワーを溜める。
「…なぁ」
グンが口を開く。
「ありがとよ、3人とも」
「礼などいらん」
「別に大したことはしてないよ。あとは、キミ自身が答えを出せばいいだけだ」
順にジャッカー、バイソン、ドラヴァイスの順に目が光る。
3人は、必殺技を放った。
各々の道を切り開くために………