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□黒龍と鰐(クロビ)
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「闇を放て、ヘビーツイン・ドラゼロス!」
ドラゼロスを覚醒させる台詞と共に、必殺技を放ってターゲットである空き缶を撃ち倒す。
鉄製であるにも関わらず、龍に食われた空き缶はもはや見る影もない鉄屑となっていた。
いつもは出身地である北ブロックで特訓していたのだが、気が向いたため今回はWBMA本部のある東ブロックへと赴いていた。
「はーっ、はーっ、はー…」
「疲労したか?バサラ」
愛機であるドラゼロスが話しかけてくる。
「うるせえ…。まだ…まだ、ダメなんだよ!!」
やけくそにまたビー玉を放つ。
弾は空中を切って突き抜けると、壁に激突しめり込んで一面に穴を開けた。
あの傷だけ見ると、まるで銃に撃たれたかのようである。
黒渕バサラは、力が欲しかった。
つい最近のクロスファイトで白銀スバルに敗北したことが素直に悔しかった。
世界中を巻き込んだあの事件によって仕切り直しとなったGPシリーズの第一戦、バサラはトップランカーである上位8名の中に食い込んでいたものの、結果はスバル、龍ヶ崎カケルに次いで3位。
その時は、龍を扱うビーダーであり世界を救った子供たちの中心とも言える4人が上から順にランクインする形となり、他の人間にとっては非常に面白くない結果となっていた。
だが、面白くないのはバサラも同じである。
何故、カケルとスバルが超えられない。
元々破壊活動のためにビーダマンをしていたのだが、今は正々堂々と勝負がしたい。
勝ちたい。
その思いが、バサラを突き動かしていた。
また無闇にショットを放ち、苛立ちを沈ませる。
と、そこに何かを擦って歩くような足音が聞こえる。
こっちに来ているようだった。
「荒れてますね」
透き通った声が耳に届く。
バサラがそちらを見ると、正体は南ブロック出身の外人、アルバ・ココドゥロであった。
褐色の肌に量が多く細い白髪を携えており、聖地の番人ということもあってかどこか神秘性を感じる少年だった。
「…なんだよ」
人と出くわしたくなかったバサラは、不機嫌な視線をアルバに向ける。
アルバはドラゼロスを見ると、ぽつりと呟いた。
「黒き龍の紋章…」
ドラゼロスが、不思議そうにアルバを見上げる。
「猛々しく、荒々しいその龍は真っ先に黄の龍に挑んだ。そして完敗した」
バサラの中に、ノースGP本戦のトラウマが蘇る。
愛機を破壊されるという悪夢。
もう二度と味わいたくない、彼にとっての深い心の傷だった。
「それが?」
「どうしたと言うのだ」
バサラ、ドラゼロスの順にアルバを突っぱねるようにして言う。
彼は基本、言いたいことだけを言って去っていくことが多いのでまともに会話が成立するとは思えないが、説教など聞きたくはなかった。
アルバがバサラを睨む。
「キミは、何のためにビーダマンをしている?」
「決まってんだろ!勝つためだ!!勝って…楽しみたいんだよ!!」
「落ち着け、バサラ…」
ドラゼロスが諫めるも、完全に興奮している。
あの経験は確かに彼を大人にはしたが、まだ根本的な部分に闇があるらしい。
「…そうか」
アルバが、自らの愛機であるダイルスを示す。
「黒渕バサラ。勝負を、しませんか?」
「あぁ?」
「ブレイクボンバーで」
と言い、アルバはバサラを先導する。
クロスファイトに取り入れたことによって一般向けにもなっていたそれを、アルバはどこからか引っ張り出してスタンバイをした。
「…なんの意図があんのかは知らねえが。見せてやるぜ、オレの実力をな!」
バサラもスタンバイしたのを見て、アルバの顔つきが変わる。
「では行きましょう。3」
「2!」
「1」
「ビーッ、ファイ!」
前半はアルバとバサラ、後半は2人の愛機であるダイルスとドラゼロスがスタートコールをし、2人は早速撃ち合いを見せた。
黄色ボムをそれぞれ2つずつ撃ち抜く。
ドラゼロスは特殊タイプのものではあったが、パワー、コントロール、連射の3タイプの中なら連射タイプとなるであろうビーダマン。
そしてアルバのダイルスも連射タイプ。
多量発射を得意とする2つのビーダマンのぶつかり合いとなった。
「うおおおァッ!!!」
持ち前のパワーでさらに2つの黄色ボムを相手陣地に押し出す。
アルバは落ち着き振り払うと、邪魔となるブロックを弾きつつ右の列に照準を定めて立て続けに連射した。
右端の段がポイントとなる赤いボムだけとなる。
「今だ!!」
ドラゼロスの声に呼応するかのように、バサラがタイミングよくビー玉を発射する。
最初のレッドボムは、バサラの物となった。
「よっしゃ!!」
「まだ油断は出来ないぞ、バサラ!」
「ああ、わかってるぜ相棒」
息ぴったりの2人の掛け合いを見て、アルバが口角を僅かに上げる。
だが、彼は玉をすぐ装填するとその隣を早打ちし、赤いターゲットをバサラの陣地に押し出した。
「ちっ…」
2人のビーダーの激しい撃ち合いが続く。
そんな中、アルバが真剣勝負だと言うにも関わらずふっと笑い出した。
「何がおかしい」
「楽しくは、ないですか?」
「楽しいさ。それがどうし…」
そこでバサラははっと息を呑んで固まった。
自分で言ったじゃないか。
世界の異変が起きた時、ナオヤに…
『大事なのは勝敗じゃねぇ。力を出し切って戦った後に、何を思うかだ』
バサラが俯く。
「…………半年もしないうちに、忘れるもんかよ…」
自分で自分が情けなくなる。
そう気づいた時、バサラの目つきが変わった。
アルバがうん、と頷く。
「キミは自分からそう言った。その気持ち、忘れないで下さい」
「聞いてたのかよ」
「あの時は、焔ナオヤのことが気になっていた」
「…はーん。それで見てたワケだ」
「お喋りはもういいでしょう」
アルバが、グローブのゲージに力を溜める。
スコアは1対1だったが、真ん中の2列が丁度赤ボムまで下がっている。
あれを撃ち抜いたほうの勝ちだ。
「ああ、そうだな…」
バサラも同じように溜め始めた。
先にダイルスの目が光る。
「フラッシュファング!!」
「食らいつけ、ローディング・ダイルス!」
アルバが放ったビー玉が鰐に変化し、ボムに襲いかかる。
遅れてドラゼロスが覚醒した。
「黒龍ストライク!」
「闇を放て、ヘビーツイン・ドラゼロス!!」
カウンターを狙い、力を込めて二発放った。
双頭の龍がフィールドに描かれる。
その押し合いの結果、バサラのパワーが勝りこちらが3ポイント先取となった。
バサラの勝ちである。
「よぉッし!!」
彼のふっきれたような笑顔を見るなり、アルバはふらりとどこかへ去っていった。
本当に変な人間である。
「…気持ち良かったぞ、バサラ」
力を尽くして戦ったドラゼロスがバサラに話しかける。
「ああ、そうだな」
バサラの顔つきは、自然に笑顔が出ていた。
雲がぼんやりと流れる青空を見上げる。
その時、スマホにメールが届く。
次のクロスファイトの開催地と日程を知らせるメールだ。
バサラは浮き足立つように、帰路へとついていった。
 

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