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□スバルとユキヒデの小話まとめ(クロビ)
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eS7話

WBMA内の特訓場で、11歳と12歳の少年は正面から向き合っていた。
これから、12歳の方である鷲村ユキヒデがクレストランドという未開の地に派遣されるので、年下の白銀スバルが情報を与えているところだった。
「一度しか言わないから覚えておけよ」
スバルが偉そうに言う。
その言葉に、ユキヒデはげんなりした。
「無茶言わんといてぇな…オレかて人間やで?」
「お前は頭いいから大丈夫だ」
妙な自信を見せるスバルに、「はいはい」とユキヒデは承諾する。
スバルは、クロスファイトで使うオレンジのグローブを着けたままスマホを弄る。
「まず、これがクレストランドの全体図。そして、オレが行った南エリアだ」
華やかな外観に比べ地味な街並みに、紫色をしたユキヒデの目が鋭くなる。
「…全体的に寂れとるな」
「荒れているんだ。ビーダマンショップもエリアにひとつしかない」
「ほーお…」
相槌は適当だが、顔つきは真剣そのものである。
スバルも険しい顔のまま話していた。
「で、ビーダーを適当に探ってみたんだが、中でも強かったのが」
「朱雀のビーダマン持ってる奴と、蜂のビーダマン持ってる奴?」
「ああ。名前は、こっちが御代カモン。それからこれが蜂須賀ミツルだ」
「そして朱雀のB-アニマルが宿っているガルバーンは龍同様に会話が可能だ」
ここで、スバルの愛機ドラヴァイスが会話に参加した。
スバルが一瞬、ドラヴァイスに目を移す。
「更に、ドライブ使いでもある」
ドラヴァイスはフォルムが変わったことによって鋭くなった瞳で、さらに続けた。
「ドライブショット!?」
これには彼も面食らったようで、唖然とした顔で御代カモンの写真を見ていた。
何故ならそれは、2人の共通の友人である龍ヶ崎カケルとアクセル=ドラシアンが得意とする戦法だったからである。
「まあ会って戦ってみればわかる」
スバルも、最初は彼のあまりにカケルそっくりな戦い方に衝撃を受けたのだが、それを隠して軽く目配せをすると、その話をパスして次の話題に入った。
まったく、ドラヴァイスが話し出すといつも脱線する。
「あと、あそこじゃロードファイトって言う対戦システムがあるんだが」
「爺様とルリちゃんも少し言うとったな」
「じゃあ知っていると思うが、あのビーダマンファイトに負けると、相手の言うことを強制的に聞かなければなくなる」
「……………」
その話を聞いて、ユキヒデは眼鏡の弦を持って上げ直すと怪訝な表情を見せた。
「そうなりゃおしまいやな」
声色もなんだか鋭くなっており、いつもより抑揚を強めて返事をした。
「中には聞いてない連中もいるだろうが、基本はそうだ」
「ちなみにビーダマン同士で目を合わせると対戦が強制的に発生する」
ドラヴァイスが情報を補完する。
ユキヒデは白けた目をして数秒、黙考した。
「興味はある。けど、やりとうないな、そんなん。せやかて、ビーダマン楽しまな仕方ないやん」
「だから天宝院実篤はお前を指名したんだ」
スバルの黒い瞳が1つ上の少年の姿を真正面から捉える。
それに関しては、自分よりも感受性に長けており何よりも教えることが上手な彼に任せたかった。
西ブロックにいた頃からそうだったが、この男、他の選手に対し甘すぎる。
スバルも正直苦手なタイプの人間であり、時に自分よりも強がろうとする巻レイジよりも面倒くさい。
だがそれが、鷲村ユキヒデという男の長所でもあった。
この男ならば、ロードファイトをせずともカモンたちと接することが出来るし、そしてビーダマンの楽しさを伝えることが出来る。
さらに、相手の気持ちを組んだり相手の間違いを正すことも可能なので、自分みたく露骨に上から目線で接したりはしないだろう。
スバルはキッ!とユキヒデをすごみ、そして命令した。
「ビーダマンの本来の楽しさ…それを教えに行ってこい」
「…せやな」
少年2人は瞳を軽く合わせる。
ユキヒデは、少しだけ、楽しそうな顔を見せた。



eS9話

「ミツル」
名前を呼ばれ、蜂須賀ミツルはどきりとした。
まだ声変わりしてはいないが、かなり低く重いその声はすぐに白銀スバルとわかった。
…が。
「よ、コスプレ兄ちゃん!」
その後ろにいる眼鏡の男は、ミツルもあまり知らなかった。
確か昨日、あのシブい大人の姿で行った時にカモンの隣にいたことは覚えているのだが…
「はじめましてや…いや、昨日会っとるか。名前言うて無かったな。オレは鷲村ユキヒデや」
人懐っこい笑顔で気さくに接してくれるのは有り難いのだが、ミツルの興味は最初の一文に集中した。
あれと同一人物だと気づかれていることを知られたく無い。
「う、えぇ?いや、オイラとは初対面のはずでぇい!名前は、蜂須賀ミツルだ!!」
ごまかしてはみるものの、照れ隠しにふんぞり返ったことで眼鏡の少年は苦笑いをしてみせた。
スバルに至ってはジト目でこちらを凝視している。
その瞳には、光が宿っておらず、そんな事はもはや彼にとってどうでもいい様である。
ユキヒデ、と名乗った少年が笑顔で手を差し出す。
「これからよろしゅうな。シブい大人の兄ちゃん」
「いや、だからシブい大人なんて知らない…ぜよ」
ミツルが変装してる時に出てくるぎこちない土佐弁が顔を出す。
「…………ぁ」
それは言った当人も気づいていており、しまったと手で口を覆う。
ミツルの頭で、血の気が引く音がした。
ミツルはユキヒデの関西弁同様、癖の強い江戸の訛りを交えて話す。
それを隠すために土佐弁を取り入れたのだが、それが今、裏目となって出ていた。
「と、とにかく!!そういうワケでぇい!!」
顔を真っ赤にして捨て台詞を残すと、ミツルは一目散に逃げ出した。
「面白いやっちゃな〜」
計算ずくで軽い毒を吐いておきながら呑気に笑っているこの男に、スバルは侮蔑の視線を放った。


無印43話

いつもの癖で腰に手を当てたまま雑賀アキラの店に入ると、眼鏡の向こうに黒髪の少年が見える。
次に、目があった。
が、彼はすぐに逸らす。
横にいる少々小柄な龍ヶ崎カケルが彼を優しく叩いてはいるのだが、そいつは一向に動こうとしなかった。
少し離れたところで同年代にしては体躯の大きい荒野グンが不思議そうな視線をこちらに向けていた。
気まずい。
何せ自分、鷲村ユキヒデとあの少年、白銀スバルは、ついこないだ喧嘩したばかりなのだ。
あの時ユキヒデは、スバルが仲間を馬鹿にしたことが許せなかった。
普段の彼ならば言わないような厳しい言葉をカケルに吐くその姿に、怒りがこみ上げてきた。
『お前は何様なんだ』『偉そうにしてるんじゃない』『この前神扇アスカにすら負けた奴が何を言っているんだ』様々な言葉を飲み込んで、ユキヒデは率直に、彼に対し『皇リュウジに勝てるか否か』を問い質した。
彼は即答で肯定した。
その解答にも呆れたのだが、それ以前に後ろで月輪ゴウイチロウが指を鳴らして肉弾戦に持ち込もうとしているのを察したので、それ以上の追及はやめた。
だが、カケルを傷つけた事は間違いない。
その思いが、ユキヒデを行動させたのだ。
…しかし。
カケルはもう気にしてないようで、柔らかく笑うとこちらに手招きをする。
一方、対人関係の不器用なスバルは、嫌そうな、しかし照れくさそうな、歯痒い視線を向けていた。
そしてスバルはカケルに押されユキヒデの前に立つと、目を泳がしながらも行儀よく頭を下げた。
「…済まない、言い過ぎた」
かしこまった態度に、ユキヒデはふうと溜まった怒りを息にして吐く。
「オレも悪かったわ。正直、お前の事考えとらんかった。嫌な思いしたんなら、ごめん」
事情を知らないグンは、首を傾げてきっちり固めた頭を掻くと真顔でゆっくりと近づいてきた。
「お前ら喧嘩したのか?」
カケルの1,5倍はある巨大な影が2人に覆い被さる。
スバルはグンを下から凄み、ユキヒデは眉を下げた。
カケルがその動向を見守っていると、グンは、2人の頭をぐわしと掴むとそのまま頭同士をぶつけた。
体に電気が流れたような痺れが走り、骨の痛みで脳が揺れる。
カケルは、その行動に目を点にしていた。
「っつう〜………」
視界がゆらゆらと揺れる。
何とか激痛を紛らわそうと言葉を発してみるが、あまり風化してはくれない。
一方、同じ衝撃を食らったスバルは、頭を抑えたままうずくまっていた。
「喧嘩両成敗だ!」
豪快に笑い飛ばすグンに神経が切れたのか、スバルが彼をすごい目で睨みつける。
頬には浮き出た神経がくっきりと浮かび上がっていた。
怒りを示すマークに、形を変えて。
「あぁぁ〜らあぁぁ〜のおおお〜…」
名字を呼んでいるだけなのに、声色と表情から呪怨の言葉に聞こえた。
脳にショックを食らって幻覚症状も起こったらしい、彼の後ろにどす黒いオーラが見える。
そのままスバルは、グンにとっかかる。
が、体格の差のせいでただスバルがグンとじゃれあっているようにしか見えなかった。
「お、落ち着いてってばぁ!!」
カケルはそれを仲裁しようと困り顔で入っていった。
それを見て、ユキヒデもふっと笑う。
すると、何やら騒がしいことに気づいた店主の雑賀アキラが、彼らを見てにっこりと笑った。
「いやあ、みんな仲良いねえ」
小学生の馴れ合いを見て、アキラは何だか微笑ましいと思った。
 

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