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□節分(クロビeS)
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2月3日。
「なぁなぁ、豆まきやろーぜぇ!」
御代カモンが、『節分用豆 得袋』と書かれた大豆の袋詰めを示しながら、笑顔で提案する。
更にその手には、赤鬼のお面があった。
今、レストランAONAにいるのはカモン、蜂須賀ミツル、拝カゲロウ、白銀スバル、鷲村ユキヒデの5人。
それからカモンの愛機、ドライブ=ガルバーンと自分、ソニック=ドラヴァイスであった。
店主であり、カモンの姉である御代アオナは、今現在、買い物に出かけている。
つまり遊ぶには今しかない、というわけだ。
「豆まきかぁ」
「オレはやらん」
好意的に捉えるミツルに対し、まるで犬の尻尾のような銀髪を携えたカゲロウは、乗り気じゃないらしくふいっとそっぽを向いた。
カゲロウの返事を聞いて、カモンが「えぇ〜」とあからさまに悲しそうな表情をする。
その顔と声音には、若干の媚びが含まれていた。
「やらんと言ったらやらん」
カゲロウも頑固に、目を閉じて首を斜め下に構えている。
こうなるとなかなか動かない。
ならばとスバルに目を向けるカモンだったが、スバルはそれを無視して窓の外に目をやった。
背中が「やらない」と語りかけている。
「じゃあユキヒデ!」
「悪いねんけど、オレ、恵方巻き作りに専念したいから、今はパス。スマンなカモン」
厨房で大量のキュウリを洗いながら、ユキヒデが言う。
一体何人前作っているのかは知らないが、恐らくあれを全て、彼一人で食すつもりなのだろう。
カモンが唇を尖らせる。
「ミツルはやるよな!?」
「お、おう…」
半ば気圧されるような形で、ミツルが頷く。
結局、カモンとミツルの2人が遊びに興じることとなった。


数分後。
「鬼はー外!福はー内!」
鬼役のミツルに、カモンが豆を投げてぶつけている。
カモンは楽しそうだが、これでは、ミツルが可哀想だ。
「…あれ、合ってるのか?」
テーブルの上に置かれていたガルバーンが、静かに訊ねた。
「私は知らん」
自分が答える。
「いてっ!ちょ、ストップ、カモン!交代しようぜ、交代!」
「よぉっし、じゃあオレが鬼役な!」
ミツルの懇願により、今度はカモンが鬼の面を被った。
それからは、鬼が追われるという逆転鬼ごっこの再開である。
スバルは相変わらず無視していたが、ずっと見ていたカゲロウの目が、何だか羨ましそうな視線に変化している。
「いんやー、楽しそうやな〜」
海苔の上に酢飯を置いていたユキヒデが、呑気に呟く。
それはともかく、彼は巻きすを6つも使って台所のテーブルいっぱいに海苔を敷き詰め、更に米を大量に乗せている。
あれでは恵方巻きでなく、単なる太巻きだ。
いや、太巻きですらない巨大寿司が出来上がりそうではあるが。
「スバル、カゲロウ、やらへんの?」
その作業をしながら、ユキヒデが訊いた。
「嫌だ」
と答えたのはスバル。
「なっ、オレは…」
だが、カゲロウは、先ほどとは違い迷いのある返事をした。
それを聞いて、カモンがカゲロウの元にすり寄る。
「じゃあやろうぜ!」
それから、升に入った豆を差し出した。
「別に、やるとは言って…」
「ブンブーン!鬼は外ォ!」
カゲロウがそっぽを向いた直後、ミツルが投げた豆がスバルの頭に当たった。
ぼふっ、という音がして、スバルが僅かに動く。
ミツルが、一気に青ざめた顔になった。
スバルは無言で立ち上がると、ミツルを睨み、豆を掴んで、それをミツルめがけて投げつけた。
いくつかは途中で散ったものの、豆はミツルにクリーンヒットした。
この、小学生にしては並外れた腕力は、さすがと言うほかない。
「いてーな、何すんだよテメー!」
「…お返しだ」
「んにゃろ〜…」
行事が、一触即発の争いに発展する。
ユキヒデが怪訝な顔をし、カモンとカゲロウも、止めようと立ち上がる。
だが、
「えぇいお前ら、喧嘩はよさんかァ!!!」
と言う、ガルバーンの怒号によって、2人は熱が冷めたのか元の鞘に収まった。


それからは結局、スバルもカゲロウも混ざり、豆まきという名の雪合戦がレストラン内で繰り広げられていた。
やっている最中にテンションが上がったのか、「爆熱オーバードライブ!」だの「音速疾風撃!」だのと言った、普段ビーダマンの試合で出している必殺技が飛び交っている。
こういうのを聞いていると、こちらとしてもつい反応してしまうのだが、ここは室内なので、理性を押さえてい我慢していた。
「完ッ成!」
厨房から、ユキヒデの達成感に満ち溢れた声が飛び出す。
そちらに目をやると、通常の何十倍もの大きさの太巻き寿司が見えた。
あれでは恵方巻きの醍醐味である、丸かじりが出来ないだろうに。
カモンがキッチンを見て、ぎょっとしたような表情になる。
ユキヒデが、カモンを見ると力作を示しながら訊ねた。
「カモン、食うー?」
「食えるか!!」
にべもなく断られると、ユキヒデは「ちぇ〜」と少しつまらなそうな顔をして、太巻きにかじりついた。
「鬼は外っ!!」
カモンの頭に豆がぶつかる。
投げたのはカゲロウだ。
カモンは少し笑うと、カゲロウに向かって豆を投げた。
もはや何がなんだかわからなくなっている。
そこに、玄関からアオナが帰って来た。
カモンが「やべっ!」と焦り、引きつった顔をする。
アオナは、店内のあちこちに豆が散らかった惨状を見ると、にっこりと笑った。
「…ねぇみんな」
妙に落ち着いたその声に、全員が緊張する。
「ちゃんと片づけなさ――――い!!!」
次には、店が音で痺れる程の説教が響き渡った。
思わずこちらも萎縮する。
その後、恵方巻きを食べ終えたユキヒデも混ざり、全員でレストランの掃除をやった。
 

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