novel

□守護者伝説 承2
2ページ/14ページ

昼過ぎにもなると
船は目的地であるインティカに到着し、ライトたちは船から降りて波止場を歩いていた。

マルコムより海鳥が多く、
ライトたちが歩くたびに
彼らは羽をバサバサと慌てるようにして広げ飛び立つ。

波打ち際では潮が押し引き
白く小さな波がいくつも出来ていた。


「なぁ、ザーク」

ピアナが彼に目を向け言った。

「ここって、どういうトコなんだ?」

彼女の問いに彼はすぐ

「王国だよ」

と返答した。

「インティカは、この大陸きっての大国で、城と城下町が繋がっている。
だが最近、王宮内の情勢はあんま芳(かんば)しくない…ってトコだ」

「…別にそこまで聞いてないけど…」

ピアナが呆れつつぶすっと
膨れるのに対し、
イーグルはぱちぱちと手を叩いていた。

「さすが、情報量は並大抵ではないですね」

「まぁな。だからかなりデカい町なんだ、ここは」

ザークは誉められると
得意げに先頭をきって歩く。


そして木で固められた
ライトたちの身長の何倍もの扉を、彼らはゆっくりと押し開けた。



確かにザークが言った通り、
道という道すべてに建物が密集しており、人口も半端ではなかった。

奥のほうに小さく
巨大な城のようなものがそびえ立っている。

言われずともあれが王宮だろう。

「こりゃ、ヘタすりゃ迷子だな…」

ライトがぼそりと言い
それからネルの手を繋ぐ。

ザークは仲間たちを
一通り見通すと、

「じゃ、オレ、ちょっと別行動するから」

そうライトに告げ、
人ごみに向かって歩き出した。

疑問を持ったライトが彼に呼びかける。

「何かあんのか?」

「この街でのガルドの知名度を探る。もしかしたら、アジトの場所知ってる奴とかいるかもしれねえだろ?」

それだけ言うと彼は
人ごみに紛れ消えていった。


「…私たち、どうしよっか」

リフィーが仲間たちを見回す。

すると、イーグルがぼそりと
小さくつぶやくように言った。

「お城に…行ってみたいです」

彼の目は今までになく
キラキラと輝いており、
太陽の光を受けた瞳が緑色に映えた。

「城?」

と問うのはピアナ。

「だめですかね?」

彼はどこかに淋しさを潜めた
笑顔で返し、しゅん…とうなだれた。

リフィーが彼の前へ歩く。

「いいんじゃない?
行くだけ行ってみましょうよ。
ね、イーグル」

彼女はそう言ってウインクを
ひとつすると、前へ向かって歩き出した。

「は…はい!!」

イーグルも、他もそれにつられ
前へ向かって進んでいった。




















城壁はやはりがっちりと固められており、ガルドのアジトとどこか雰囲気が似ている。

門前にいる兵士に話しかけると、意外にあっさりと奥へ通された。

ただし、反乱を取り除くためと
武器は全て奪取されたのだが。


中はやはり高級そうな雰囲気が
漂っており、どこまでも広がる天井や壁がそれを物語っていた。

「ほえー…すげーなぁ…」

ピアナが思わず感嘆の声を漏らす。

ユルカやリフィーも落ち着かないようで周りをきょろきょろと何度も見渡している。

だが、イーグルだけは
天井を静かに見上げて固まっていた。

何故か、心の奥底から
懐かしさともなんとも言えないものがこみ上げてくる。


シャンデリアが笑い、次々にガラスの光がきらきらと輝いた。

彼ははっとなり、次には訳も分からないまま走り出していた。


「どこへ行くの?」

リフィーの呼びかけにも応じず、彼は迷いもなく大広間を出て階段を走り駆け上がった。

体が勝手に動く。

制御は、出来なかった。

やがて彼は二階の、一番扉が立派に創られた門をゆっくりと押して開けた。

奥には、立派な装束を纏った
恐らく50代前後ではあるが髪も髭もすっかり白くなり老いてしまった老人と、
それとはかなり歳が離れた女性がひとり横に腰かけている。

老人はイーグルを一目見るなり
死人でも見たかのように目を丸くして立ち上がった。


イーグルも息を切らしながら、ようやく自分がとった不可解な行動の意味に気づく。

女性は知らないが、
その老人には、いや、この建物すべてには、見覚えがあった。


まず老人が震えながら口を動かす。

「お前…まさか…」


しわがれた声だった。

しかし、変わっていなかった。

リフィーたちがばたばたと
こちらへ向かってくるのと同時に、全てを悟ったイーグルが口を開く。

「……父上…」

彼のひとことに場の空気が凍りつく。

そのまま彼は無言で歩み、
手甲を外して例のアザを老人に示した。


老人はそれをまじまじと眺め、
それから腰をゆっくりと下ろす。

「…やはりな」

老人とイーグルのやり取りがいまいち分からず、
リフィーが眉を歪めたまま前へ歩む。

「ねえ、何、どういうこと?」

彼女の問いに答えたのは、
イーグルではなく、老人―――否、王のほうだった。

「彼の名は…イーグル・アズワルト・リフォカルト。
我がインティカ王国の…王子じゃ」

電撃が、その場に走る。

リフィーはそれを聞くと
目に驚きと哀しみが入り混じった色を浮かべた。

イーグルは、確信しつつも戸惑いを隠せず、王から―――父から、目を離せずにいた。

運命の歯車が大きく狂い、回る音がどこかで聞こえた気がした。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ