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□雨のオーケストラ
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降りしきる雨の中で○○は泣いていた。血塗れの死体に囲まれ、その内の一体を抱き締めてただ声を上げて泣いていた。

「○○…」

名前を呼ぶと、○○は俺の方を見た。

『政宗』

いつも通りなら俺の名前を呼んで笑っただろう。

「どうして見殺しにしたのよ!!」

今まで聞いたことのない怒りに満ちた声。
今まで向けられたことのない悲しみに満ちた声。

「No!違うんだ!」

「違わない…政宗、ねぇ、お母さんが殺されそうになってる時こっち見たよねぇ、ねぇ…ねぇ!」

○○の言う通りだ。

○○の母親が切られかかっている時、俺はそちらに目をやっていた。しかし、情けないことに手が一杯だったのだ。

認めたくないが見殺しにした、と言われればそうなのかもしれない。

言い訳もできずにただ黙っていると、○○の腕から母親の死体が滑り落ちた。

○○ゆっくり立ち上がって、地に転がる母親の死体に一度目をやってから俺に背を向け、覚束ない足取りで歩き出した。

「○○、待て!」

手を伸ばした、が、

「触らないでよ」

その一言で一蹴された。

「何が天下よ…。勝手にやっててよ!私たちは何の関係もないのに、こうやって人が死んでいくの!なによ…なんなのよ…」

何も言えない。

「大嫌い」

心臓が痛んだ、息が苦しくなって、○○が見れない。

○○の背中が遠くなっていく。呼び止める言葉も出ない。



ずっと夢見てきた。
いつか○○を幸せにしたいと、愛してると伝えたいと。でもそれを伝えるには、天下をおさめてからだと決めていた。

『俺にI love youって言わせたきゃもっとLadyになってみな』

『政宗と同い年だし、もう大人だよ』

『中身の話だ。俺からしたら○○はまだGirlだな』

『私からしたら政宗だってまだまだ…ぼーい?だし』

『うるせーよ』

見えなくなっていく○○の背中を見つめながら、そんな話をしたことを思い出した。

その背中が見えなくなっても、まだ見えるような気がして、湿気と血の生臭い臭いをのせた風にふかれながら、ただ一人その場に膝をついて、泣いた。







あれから半年。

小十郎から聞き捨てならない噂話を聞いた。

『戦場に赴いては兵士、民を見境なく殺して高笑いしている不気味な女がいるそうです』

『なんだ、明智光秀じゃねーか?』

『その女は、殺す前に異国の言葉で何かを必ず問うそうです』

その噂を聞いた数週間後、初夏の雨が降りしきる中での戦で、俺は戦いながら女の姿を探した。

「政宗様!戦に集中なされよ!」

「OK...わかっている」

小十郎に言われるまでもなく理解していることだが、その女を探さずにはいられなかった。

異国の言葉を話す女。
それが、俺が会いたいと願ってやまない人物かどうかという確証はない。でも、それがその人物でないという証拠もない。

となれば、探すだけだ。

その時、バンッバンッと銃器を撃った時の音があたりに響き渡った。
音のした方に目をやると、雨の中から覚束ない足取りで歩いてくる人影が見えた。

「政宗様!」

小十郎を無視し、そちらに向かって走る。

あの足取りは、あの時そのままだ。

俺の姿が見えたのか、女は俺に向かって走ってきた。髪は長く、顔は見えない。
女は刀を抜き、俺に振り下ろしてきた。振り上げた瞬間、一瞬見えた懐かしい顔に気をとられて、一太刀を受け止めた刀は飛んでいき俺はその場に尻をついてしまった。
すると、女は刀をしまって銃を取りだし俺に向けた。

「Where is he?」

女がそう言った時、あの生臭い風が吹き、女の髪がめくれ顔がはっきり見えた。



ああ、



「『彼』なら」



やっと



「ここにいる」



会えた。

女は口元にふっと笑みを浮かべてみせた。

「やっと見つけた」

引き金にゆっくり力をこめていっているのがわかる。

「Ladyになったと思わない?ねぇ、政宗」

俺の名前を呼んだ女は、俺の知っている笑顔ではなく歪んで狂った微笑みを浮べていた。

それでも、俺の気持ちは変わらない。

「...I love you. 愛してるぜ、○○」

愛しくて、愛しくて、仕方がない。

引き金が引かれ、目の前火花で真っ白なって



真っ暗になった。







雨のオーケストラ
(君が描く幸せの絵に)
(俺の姿は見当たらない。)


::アトガキ::
「雨のオーケストラ」という曲を聴いていて出来たお話。
最後の文も歌詞から。

連載にするつもりだったのですが、ハッピーエンド無理っぽかったので短編でまとめました。
よってかなりはしょってます。
こういう鬱な話って需要あんのかな、個人的には好きなんです。


(加筆修正しました。)

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