昔、何回か政宗の家に遊びに行ったことがある。 『もとちか、お前またお絵かきかよ。男なんだろ?ヒーローもんとか興味ないのかよ』 『んぅ、ないよ。それより政宗君、見て見てー。お花だよ』 その頃の俺は男でありながら完全なる女だったから、政宗と遊びの趣味は噛み合わなかったけど、それでも政宗は俺と一緒に居たがったんだ。 当時は何とも思わなかったけど、不思議だよな。一緒にいても一緒にすることがないのに、一緒に居たがるなんてよ。 理由は、そうだな。俺が自分の服が女物なのに疑問を感じた頃だったから、二年ぐらいしてからわかった。 『見てみろよ元親!テスト、100点だぜ?凄くね?』 『うわぁ、凄いね。政宗も見てよこれ、今日ズボンなんだよ』 『うん、いや、そりゃ当たり前じゃないのか?』 『そうなの?』 そんな話をしてたら部屋の扉が開いて、政宗の母親が入ってきたんだ。 でもな、おかしいんだよ。政宗とは目を合わせないで政宗の鞄をあさってんの。 『なにしてるの?』 俺がそう聞いたらさ、ニッコリ笑って 『テスト返されたみたいだから、探してるの』 って言ったんだ。 そしたら政宗がこっち来て、テストを母親に差し出したんだ。 母親はテストを受け取って、点数を見たら顔色一つ変えずにただそれを机に置いて出ていこうとしたんだ。 やっぱりさ、小学校低学年ならテストの点数は親に褒めてもらいたいもんだろ? 政宗は母親の服の袖を掴んだんだよ。そしたらさ、 『触らないで!!!』 ってさ、母親が怒鳴り付けて政宗を払い除けたんだよ。 「……そんな、どうして…」 政宗の眼帯。あれ、なんでつけてるか知ってるか? 「知らないです…てっきりファッションの一部かと…」 …病気だったんだよ。今は治ったけど、右目の方だけ、なんか歪んじまってるから。 「そうだったんですか…」 話は戻るけどな、政宗は中学三年ぐらいから突然女遊びが激しくなったんだ。俺がたまーに遊びに行ったら、毎回違う女がいるんだよ。 多分母親から貰えなかった愛情を女に求めたんだろうな。 でも他人の女に母親に求めた愛情を貰えるわけねーだろ?だからコロコロ女が変わるわけ。 『お前さぁ、ちょっと遊びすぎだろ?見境なくヤリまくってたら性病うつされんぞ』 『あー。なんかどうでもいいわ』 『はぁ?』 『虚しいんだよな、なんか』 そんな話をしたあとさ、俺は会社継ぐの決まってたから留学して政宗とは会わなかったんだけどよ。 突然だったよ、国際電話かけてきてさ。 『なんだ、どうしたんだよ』 『最高に笑える話があるんだけど』 『あ?…なんかお前おかしくねぇか?』 『まぁ聞けよ。俺さ、母親に殺されかけた。飯に毒盛られてさ。気付いてたから食わなかったけどな』 冗談だと思ったけどな。 どうやらマジみたいでよ。母親は手料理を政宗に食わしたことねーのに、突然料理作って食わせようとしたんだとよ。 前々から母親の挙動がおかしいことと、右目さんがどこでどう手に入れたのか毒物が冷蔵庫の奥の方に隠してあるの見つけてたらしくて、それで回避できたらしい。 『初めて息子に食わせる飯が毒入りだぜ?笑えるだろ?』 『お前…それ笑えねーだろ…』 『小十郎が親父に報告したら、別居しろだとよ。まぁ、いいマンション用意してくれたみてーだし、帰ってきたら遊びに来いよ』 それだけ言って電話は終わった。 「本当に、毒が入ってたんですか?」 ああ、右目さんが母親を追及したらあっさり認めたらしいしな。 「酷いっ…そんなっ…!」 それから何回か政宗と電話することはあったが、様子はおかしいままだった。多分不安定だったんだろうな。 でもな、つい最近電話した時、声だけでわかるぐらい元気になっててよ。 『なんだよ、いいことあったのか?』 『Ah? 最近メイドが来てな、なかなか良い奴でさ。一緒にいて、落ち着くんだよ』 「政宗様が?」 ああ、言ってた。 政宗はまぁ、あんなんだし、かなり過激な感じだけどさ、本当は弱くて寂しがりで…だからさ、あいつのそばに居てやってくれないか? 一緒にあんなことした俺が言っても説得力ねーが、俺からも言っとくからさ、頼むよ。 「……こんな話聞いたらますます辞めにくいんですけど…」 悪いとは思ってる。でも話しとかねーといけない気になったんだよ。 あ、ほら、マンション着いたぜ。降りろよ。 |