Kiri
□tresor
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私のベッドでぐっすりと眠り込んでいるレジーナ。
その傍に椅子を引き寄せ座り、組んだ足でスケッチブックを支えながら、その姿をデッサンしていた。
こんな風に無防備な姿で眠っているのを長々と見られるのはそうあったもんじゃない。
私が目覚めるとすぐに彼女も追いかけるように目覚めてしまったり、私の方が起きるのが遅かったりすることもある。
彼女の寝姿が珍しく、その姿が私が好きな様子の一つだというのもあるのだが。起きている時のレジーナは、決して私のモデルにはなってはくれないのだ。ドレスをデザインしたいと思っても、なかなかそれも許してはくれない。彼女は一流の貴族なのだし、私が贈らずとも充分な衣服があるとしても、たまにはそんなことをさせてもらいたいと思う。
「ん…」
そんなことを考えていると、レジーナが身じろぎした。どうやら起きたわけではなさそうだ。細い肩が露わになって、私の視線を奪う。
スケッチブックのページをそっとめくって、その姿をまた新しく描いた。
私は知っているのだ。
私のモデルにはなってくれないくせに、散歩に出た先の公園なんかで絵描き志望の学生などのモデルになってやってることを。それを最初に私に教えたのは…確かベルナールだったか。奴には、外でレジーナを見たら報告するようにと伝えているのだ。その後、ナーディルも見たと言っていたな。
そんな道端の絵描きより、私の方がずっと上手く彼女を描いてやれるにも関わらず、何故私は駄目なのか。その辺りがどうも納得がいかない。だからこうしてこそこそとデッサンするはめになるのだ。
「…エリック…?」
今度こそ、彼女は起きたらしい。
ベッドの隣に手を伸ばして私が居ないと気付いた様だ。そんな仕草が堪らなく愛しかった。
「お早う、レジーナ」
スケッチブックをバレない様にしまい込むと、移動してベッドの端に腰掛け、身を屈めて彼女に目覚めのキスをする。頬は柔らかく少しひんやりとして心地良く、起きあがるとますます露わになった躯に、熱が上がりそうになるのを堪えた。
「飲み物は何が良いかな?紅茶?それとも珈琲?ココアもある。」
「…珈琲がいいかしら。」
ゆっくりと瞬きをしながら、そう応えが返ってきた。
もう一度と、こめかみにキスをしたら、朝食の準備の為に私はキッチンへと向かった。レジーナがバスルームを使う間に用意は整うから、問題はない。
こんな日常が来るなんて、想いもよらなかった。
何度思い返しても、そう想わずにはいられない。
今となっては随分昔のことだが、女奴隷さえ私の思い通りにならなかったのに、ましてや彼女は一流貴族だ。スキャンダラスな名家の出身だとしても、兄弟は爵位持ちで、彼女は社交界の華。
「お待たせ」
濡れないように纏めた髪と、ガウン姿で姿を見せたレジーナは、すっかり目覚めてパッチリとした眼をしていた。私の傍に寄ると肩に手をかけて、背伸びをする。
「お早う、エリック。」
頬に彼女からの目覚めのキス。
私だっていつまでも、親愛のキスを夢見ていたあの頃とは違うのに、こんな些細な触れ合いにまだ感動できる瞬間がある。
「今日の予定は何かあるのか?」
朝食の置かれたテーブルに向かい合いながら問いかける。
「今日は、ドレスの出来を確かめに。来週ジェームス兄さんがパーティを開くの。新調したドレスを着なさいって言われたから。」
ということは、来週は彼女は実家に帰るのか。少し寂しいな…と思いながら、それを口にせずに相槌を打った。
その間にさっきのデッサンを仕上げようと、こっそりと思った。
やることがあれば、数日は集中していられるだろう。
***
やっっと、2500HIT始めさせていただきます!!
てか、まだなんも始まってないけど;
続いちゃう感じですみません・・・おつきあいくださいませ。
tresor=宝物。