side M
□Part Of Your World(Reprise)
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穏やかな午後。
珍しく仕事は休日にしたし、特に急いでやりたい事もない。
そもそも、陽が出ている「午後」というもの自体好きではなかった私だが、傍に居れくれる人の影響ですっかりと志向に変化が生まれたらしいな。
「エリック?」
「起きているし、聞いているよ。」
ソファにゆったりと腰かけた彼女。
私はその膝枕でのんびりとくつろいで、彼女のおとぎ話を聞いていた。
心地よさについ眼を閉じそうになった私に、レジーナが声をかけてくる。けれど、その声音は咎めているわけではなく、ただ確認したという感じだった。とても優しくて、小さな囁きだったから。
「お前のおとぎ話は、私の知っているものと少しずつ違っているな」
「そう?」
最近、彼女のおとぎ話をよく聞くようになった。
こうやって二人でゆっくりとしているときに、何かのきっかけでそんなことになったのだ。聞いてみると、これがなかなか興味深い。
彼女のおとぎ話は、私の知っているものよりハッピーエンドだったり、現代的だったり色々だ。
今日の話は、人魚のプリンセスが、偶然にも私と同じ名前の人間の王子に恋をする…そう本来なら交わることのない二人の恋の物語。
プリンセスは、美しい歌声と引き換えに「足」を手に入れる。でも、王子はプリンセスを探すために手がかりの「歌声」を探す。
…皮肉だ。
彼女が傍にいるのに、惹かれているのに、「声」が無いから同じ女性だと気付けない。
「もし私に歌が無かったら、貴方はきっと私を好きになってないわね」
「何故そう思う?」
「なんとなく。あぁ、でも…歌だと、私よりクリスティーヌの方が素晴らしいもの。やっぱり、駄目ね。貴方、何故私を好きになったのかしら。」
ただ、言ってみただけという風に呟いた彼女。
確かに歌もきっかけの一つ。それがなくても、彼女は私を人として受け入れてくれた数少ない一人だ。
出逢った時、まず美しさにも惹かれたし、優しい眼差しも好きだ。後は…ありすぎて、とても伝えきれない。
「少し眠ったらどう?とても眠そうよ。」
「あぁ、でも…」
のんびりと傍に居られる時間は、意外にも貴重なものだ。少しでも長く会話を楽しんだり、無邪気な触れ合いをしていたい。
けれど、その想いとは裏腹に彼女の温もりと柔らかさに安心していると、眠気がやってくるのだ。
心地良い午後の一時に、微睡んでゆく。
「ここの所忙しくしていたでしょう?ちゃんと休んで頂戴。」
彼女が、私の仮面をそっと外した。
肌に触れてくる手に、優しさに、ますます目蓋が重くなっていく。私は彼女の手をとって握りしめた。
「ちゃんと此処に居るわ。」
…多分、こういう所に惚れているのだ。
私が何も言わなくても、無意識に望んだ言葉が返ってくる。
「…少しだけ、眠るよ」
「えぇ」
遠のく意識の中で、彼女の優しい歌が聞こえた。
おそらく、さっきのおとぎ話の歌。
私と彼女は人間と人間だけれど違う世界の住人。
でも、確かに愛し合っている。
どちらがどちらでもなく、ただその優しい歌の様に…ただ、傍に居たいと望んでしまったんだ。
今更別の世界で…なんて、想像したくないし、私はきっととても耐えられないだろう。
もう一度手を握りしめて彼女を確認する。握り返してくれる手に、歌に…彼女も同じ気持ちである様にと切実な願いを込めた。
目覚めた時どうか、微笑んだ彼女が私にキスをくれますように。
end
***
リトルマーメイドから。
オペラ座もそうですけど、歌が使われる作品には結構このReprise(繰り返し)ってのがあるんですよね。
歌詞とかは違ったりやけど。
M部屋って、現在基本片思い??なので。たぶん、私の基本傾向からいくと、短編で甘い話を書いてるのがいいんです、うん。あんまり変にネタ仕込まないくらいが(笑)
RepriseバージョンのPart〜は以下の歌詞です。
あなたのそば ずっと離れない そばにいたいの
ほほえみかけて 私に
歩いて 走って 日の光あびながら
あなたとふたりの世界で
なにかが始まる 変わる 私の世界が
必ず会いに行く あなたに
アリエルが、エリックと出逢った後に歌うのです。