side M
□Beauty and the Beast
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「煮詰まってるの?」
ピアノの前に座りながらも、弾くでもなく、譜面を書くでもなく。
ただ座っているだけのわたしに、お茶を持ってきた彼女が問いかけてきた。
「生憎、当たりだよ。煮詰まってる」
なかなか良いイメージが浮かばなくて。
「じゃあ、気分転換に私の歌はどう?きっと気に入ると思う。」
そうすると、彼女が。
物語を聞かせ始めた。
むかしむかし、ある国のワガママな王子さまがいました。
ある夜、一人のみずぼらしい老女が一本のバラと引き換えに、一晩の宿を求めてやってきました。
そんなプロローグ。
老女をバカにした王子は、野獣に姿を変えられてしまう。
バラの花びら、最後の一枚が落ちる前に、愛し、愛されれば…
そんな他人事とは思えないような物語。
彼女が歌い始めると、とても美しいメロディーに乗せて、物語が展開する。
それがどことなく、私たちふたりにも似ている。
わたしと住み始めた彼女、私を受け入れてくれて、いつかお互いに惹かれあって。
戻るような美しい容姿はわたしにはないけれども、愛のある生活が手にはいった。
彼女がそばにいて、歌がある。
彼女の歌に合わせて、ピアノを弾きはじめた。
太陽が昇るように当たり前で確かなこと。
わたしと彼女が、愛し合うことも、一緒に生きることも、そんな当たり前で自然なことであればいいと思いながら。
彼女の歌と物語からインスピレーションをうけて。
夜までには、新しい曲を仕上げて、わたしからお返しの愛を君に贈ろう。
***
まさしく美女野獣なふたり。