side M
□Can you feel the love tonight?
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マンハッタン・オペラハウスの初日。
それは、わたしがもう一度自分と向き合い、確かめ、自分の気持ちに正直になろうと決めた日。
私の探していた愛を。
今、欲しい愛を。
私は何度も自分のベッドで彼女を抱いた時の事を思い出していた。
たった二日間のこと。
華奢で柔らかな肌、私を呼ぶ声と私を包んだ熱さ。
キスを交わしたときの幸福。
自覚した想いは膨らんで、それは確信に変わる。
そして、今日。
ピエールから紹介されて、音楽の天使になった彼女。
こんな少年相手に嫉妬するなんて思わなかった。手を取り合って歌うふたりはとても完璧で、私さえまだ、越えていないところを越えられた。そう感じたのだ。
「おかえりなさい」
バルコニーから、マンハッタンの夜景を見下ろしながら。
背後に私の気配を感じて振り返った彼女はそういった。
「今日のあなたは素晴らしかったわ」
「お前も、素晴らしかったよ。ただ、お前がピエールと知り合いだったとは知らなかったが。」
二人の間を風が通りすぎる。
まさか、あんな風に会うとは思っていはいなかった。
伝えようとしていた想いが、喉にひっかかる。
「ねぇ、エリック。取り戻すことはできた?」
あの時、隣に居たのはクリスティーヌだった。
それを勘違いしているのかもしれない。
「お前に伝えたいことがある」
「私もあるの」
「・・・何だい?」
彼女は、歌い始めた。
言葉が見つからないから、私らしいやり方で伝えるわ、と言って。
今日一日をまさに表しているような、そして、私の人生を振り返るような。
そして、今の私の心境を代弁するような。
愛に、たどり着いたと。
そう思ってもいいのだろうか?
それとも・・・
「貴方が誰を愛していても、私は貴方を愛しているわ」
それだけよ、と微笑んだ彼女。
「レジーナ」
私は微笑んだ彼女を抱き締めた。
そうしないと、私が欲しがった愛が逃げてしまいそうで怖かったから。
「私はお前を愛している」
「貴方、クリスティーヌがいるじゃない。」
「違うよ、クリスティーヌには、ちゃんと伝えたんだ。新しい愛を見つけたと。」
「本気なの?何年も何年も想い続けてた人なのに」
私は、抱き締めた腕を緩めて、手のひらで彼女の頬を包んだ。
「お前が教えてくれたじゃないか。人生は万華鏡だと」
長らく、私の人生は闇だった。
それが、彼女という光がさして、そして輝き始めた。
そして、たどり着いた愛。
「私も、貴方の愛を手に入れられたのね?」
頬に一筋の涙。
そんな風に泣いてくれる人を知らなくて、戸惑いながらそれを拭う。
「エリック」
レジーナの細い身体が私の身体を抱きしめて、それを私も抱き返した。
マンハッタンの夜景が人生で一番美しく輝いていた。
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