指に触れる愛
□指と指、離れる瞬間
1ページ/2ページ
都内の一流ホテルの一室に踏み込む。
他にもたくさんの有名な人や、もちろん一般の人も泊まっているだろうから、私が誰に会いに行くかなんて気にする人はいない。
なのに、一人でなんだか緊張して、そわそわして、誰にも見られてないか気にしてしまう。まだまだこの瞬間に慣れない。
少しはや足になるのは仕方がない。
数か月ぶりにやっと日本に戻ってきてくれて、久々に会うわけなんだから。
私みたいな普通のOLがなんで?って、いつも夢だったんじゃないかって思うような人なんだもの。
ピンポーン
緊張した指先がなんとかインターフォンをおした。
「遅い」
無駄のない動きで手を引いて、部屋に招き入れる。気づけば腕の中、甘い声が降ってくる。
「待ちくたびれよ、蓮」
「ごめんね、結弦」
私も腕を回して、抱き止めた。
「優勝おめでとう。おかえり。」
「ありがと」
聞きたいことや、話したいことはたくさんあったとおもうし、考えてたはずなんだけど、会うと忘れてしまう。
結弦のぬくもりに包まれていると安心するし、泣きたいような幸福がある。
「蓮?」
「もう少し」
背中に回した腕に少し力を込める。
本当に、雲の上の人なの。普段は。
「どうしたの、珍しいね。」
彼の繊細な指が、私の髪を梳く。
いつもは、自分からこんな風な事は言わないし、しないからだろう。
年上な事、住む世界が違いすぎる事、色々と気にしていることはあるし、負担になりたくない気持ちが強いと思う。
「蓮、少しやせたね」
「なんでわかるの」
「だって、蓮のことだから。」
ジャケットの線に添うように、彼の手が背中を撫でる。
ただそれだけのことで、神経がざわつく自分が恥ずかしい。
身体を離して見上げると、私の好きな柔らかい笑顔で彼が見下ろしていた。
私の好きな指先が、頬を撫でる。
それがお互いの合図のように、そっと目を閉じた。
唇に、頬に、瞼にも次々キスが降ってきて、くすぐったさに笑ってしまった。
「まだまだこんなんじゃ返さないよ」
氷上とは違う、わたししか知らない顔でそう言った結弦が。
バスルームに私の背を押した。
恋人の夜はこれから。