指に触れる愛

□指と指、離れる瞬間
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都内の一流ホテルの一室に踏み込む。

他にもたくさんの有名な人や、もちろん一般の人も泊まっているだろうから、私が誰に会いに行くかなんて気にする人はいない。
なのに、一人でなんだか緊張して、そわそわして、誰にも見られてないか気にしてしまう。まだまだこの瞬間に慣れない。

少しはや足になるのは仕方がない。
数か月ぶりにやっと日本に戻ってきてくれて、久々に会うわけなんだから。

私みたいな普通のOLがなんで?って、いつも夢だったんじゃないかって思うような人なんだもの。



ピンポーン



緊張した指先がなんとかインターフォンをおした。

「遅い」

無駄のない動きで手を引いて、部屋に招き入れる。気づけば腕の中、甘い声が降ってくる。

「待ちくたびれよ、蓮」

「ごめんね、結弦」

私も腕を回して、抱き止めた。

「優勝おめでとう。おかえり。」

「ありがと」

聞きたいことや、話したいことはたくさんあったとおもうし、考えてたはずなんだけど、会うと忘れてしまう。
結弦のぬくもりに包まれていると安心するし、泣きたいような幸福がある。

「蓮?」

「もう少し」

背中に回した腕に少し力を込める。
本当に、雲の上の人なの。普段は。



「どうしたの、珍しいね。」



彼の繊細な指が、私の髪を梳く。

いつもは、自分からこんな風な事は言わないし、しないからだろう。

年上な事、住む世界が違いすぎる事、色々と気にしていることはあるし、負担になりたくない気持ちが強いと思う。



「蓮、少しやせたね」



「なんでわかるの」



「だって、蓮のことだから。」



ジャケットの線に添うように、彼の手が背中を撫でる。

ただそれだけのことで、神経がざわつく自分が恥ずかしい。

身体を離して見上げると、私の好きな柔らかい笑顔で彼が見下ろしていた。



私の好きな指先が、頬を撫でる。

それがお互いの合図のように、そっと目を閉じた。



唇に、頬に、瞼にも次々キスが降ってきて、くすぐったさに笑ってしまった。



「まだまだこんなんじゃ返さないよ」



氷上とは違う、わたししか知らない顔でそう言った結弦が。

バスルームに私の背を押した。



恋人の夜はこれから。



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