指に触れる愛

□指だけ、そっと
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空港の国際線ロビー。



後輩と連れだって、もうすぐ出張から戻ってくる上司を待っていた。
合流したら近くでミーティングをして、次の打ち合わせに向かうことになっていたから。



腕時計を見ると、まだ少し時間がある。



「蓮さん、私お手洗い行ってきますね」




「分かった。じゃあ、私あっちの待合スペースにいるから」




「はい」




後輩と別れて、ベンチスペースで待とうと歩き出した。
上司がつけば場所を知らせる電話がくるはずだし、思ったほど混んでいないみたい。





「あ、」




前を通った人のポケットから、何か落ちる。

急いで拾ってみると、見たこともないくらい凝ったデザインのイヤホン。
これはきっととても大切なものなのだろうということが、すぐに分かるようなものだった。




顔を上げて、落とし主を追う。

すっと伸びた背筋と細身の身体が印象的な後ろ姿のその人に見惚れそう。




「すみません、これ落としましたよ」




足早なその人に、やや必死に声をかけると、落とし主は振り向いた。
私はそっと両手に乗せたイヤホンを掲げて、差し出す。




「すみません、ありがとう」




すっと伸びた細い指が手のひらに僅か触れながら、イヤホンを受け取る。
その動きがなんだか優雅で、指先を追って見上げた先の落とし主に。
私は驚きすぎて、言葉が出なかった。




私が彼に気づいたこと、表情で伝わったのだろう。
彼は微笑んで。



「これ、一番お気に入りのやつなんです、無くさなくてよかった」




ありがとう、ともう一度重ねる相手に、何を言えばいいのか分からず。




「いえ・・・お役に立ててよかったです。がんばってください」




「ありがとう」




月並みな言葉しか出ず、自分に失望してしまう。

時が止まったように、私は彼を見上げていた様な気がする。










「蓮さん、こっちですよ」




「待たせたな、佐倉」




上司と後輩が少し遠目から声をかけてきて、はっと我に返り。




「じゃ、本当にありがとう」







彼は、帽子を目深にかぶりなおすと歩き出した。




私も急いで、二人の所に向かう。







「蓮さん、知り合いでもいたんですか?」




「ううん、落し物を拾ってあげただけ」




「なんか、顔赤いですよ?大丈夫ですか?」




「風邪は困るぞ、これから忙しくなるんだから」




二人がぼーっとした私を心配そうにのぞきこむから、大丈夫と返して。







すごく、すごく貴重な出会いになんだか勇気をもらった。
















これが、私たちの初めての出逢い。

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***

うちの二人の出逢いのお話です。

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