指に触れる愛
□35億
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「ねぇ、蓮」
「なに」
「こっち来てよ」
「まだ無理」
「なんで!」
「明日の朝までにこの資料ださないといけないから」
「僕がいるのに、仕事する?」
「仕事なの」
「僕より大事なの?」
「だまっててくれたら早く終わるわよ」
テレビでインタビューに受け答えしているときの大人びた、はきはきした、しっかりした意見を述べるひとと同じとは思えないやり取り。
自分より仕事が大事なのかなんて、女子か!と思えるような問いかけだ。
とはいえ、そんなことで怒るようなわたしではない。
そんな子供っぽいともいえるやりとりをするのは、多分わざとで、心を許している証拠だと思うから。
上書き保存を押して、 PCをログアウトする。
かけていたメガネを外し、PCを閉じた。
ブルーライト用のメガネは効果はあるが、メガネ自体に慣れないとやや厳しい。
「コーヒーいれるけど」
「いる」
「なに拗ねてるの」
「僕より仕事が大事ってゆうから」
「言ってないわ」
ソファの上でふてくされてるのも、かわいいといえばかわいいけれど。
「はい」
ガラステーブルに片方のマグをおく。
「僕のこと好きじゃないんだ」
「すきよ」
「うそだ」
「わたしが見つけた35億分の一だもの」
「…」
「ここ、つっこむところなんだけど」
「なにそれ」
「地球上ににおとこは何人いるとおもってんのー?ってやつ」
「普通に感動しかけたのに」
逆にすねさせてしまったらしい。
「機嫌なおしてくれる?」
「知らない」
「喧嘩はしたくないのよ…一緒にいるのに」
ふん、とそっぽを向いた横顔。
コーヒーを一口飲んだ。
砂糖とミルクをいれたそれは苦くて甘い。
「ごめんなさい、わたしが悪かったわ」
「蓮は悪くないよ」
カップと反対の手を彼の片方の手に重ねる。
言葉なくても、仲直りのしるし。
お互いの存在価値を再確認するのは、それが原点だから。
「神様がいるなら、感謝してる」
「なにを」
「35億分の一に再会できて、それが結弦だったこと」
「なにそれ、ズルい」
照れた顔がわたしを見つめるのに、幸せなきもちになって。
かわいいから、頬をつねった。
そんな他愛ないじゃれあいが心地いい。
彼は、35億と、あと五千万人分の一の最愛の人。
***
なんかしょうもなくてすみません・・・
あえて、わざとこういう子供っぽいしゃべり方をしてみるという妄想