指に触れる愛
□不機嫌な彼女
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「なんか怒ってる?」
今シーズンの試合がすべて終わって、やっと一息。
そう思いながら、いつもの様に彼女の部屋に来た。
ところが、なんだか様子がおかしい。
いつもみたいに、おかえりのハグもないし、微笑んでもくれない。
提案もなく、マグカップが置かれて、それを受け取った。
これは、いわゆる、不機嫌という状況だとおもう。
いわゆる、という説明になるのは、彼女がそんな状況を見せることがないから。僕が何をしても、何をいっても尊重してくれて、無理は言わない。そこがとてもありがたいところ。
だから、ほぼはじめてなのだ。こんな状況に置かれることが。
だから、どうしていいのかわからずひとまず観察するだけになり、いよいよ耐えられなくなり聞いてみた。
それが、怒ってる?なんだ。
「なにも怒ってない」
「僕がなんかした?」
「怒ってないってば」
「今日は、来ちゃだめだった?」
「悪くない」
「でも怒ってるでしょ。教えて」
「怒ってない」
「ねぇ、」
段々、こっちが怒りたい気分になってきた。
僕らいつも言ってるのに、二人で居るときに喧嘩はしたくないって。
「二人で居るときに喧嘩したくない。いつも言ってるでしょ」
「そうよ」
「だから、なんで不機嫌なのか教えて」
「だって、」
僕の真剣な表情に、観念する気になってきたらしい。
「結弦がちゅーするんだもん」
「ちゅー?」
なんの話かわからず、ぽかんとそのまさかの単語を繰り返した。
「一昨日のエキシビションで、投げちゅーするんだもん。そしたら、凄い歓声で、みんなメロメロだって記事ばっかり。これ以上人気でてどーすんのって。それだけ!怒ってないからね」
そういうと彼女は、ブランケットに潜り込んだ。
僕は、予想外の内容すぎてぽかんとしてしまった。
確かに今シーズン最後のエキシビションでテンションがあがってそんなことはしたけど。それはまあ、パフォーマンスだし。
もしかして、妬いてるの?
ヤキモチって、もしかしてはじめてじゃない?
だいたい、テレビで試合後に選手どうしでハグしたりとか、色々そんなシーンも流れるし、それの延長みたいなもんだよ、投げキスだって。
ヤキモチとか、だいぶ嬉しいんだけど。
「蓮、出てきて」
こんもりと膨れたブランケットの、頭の辺りをそっと剥いだ。
彼女の顔が半分出てきて、僕を見つめる。
いつも、年上の彼女は僕を守ってくれる、そんな気がして心地いい。
でも、その分、ほんとに好きでいてくれてるのかなって不安な部分もなくはない。物わかりが良すぎって思うところがあって。
なのに、こんな些細なことで不機嫌になるなんて。
「蓮、キスしよ」
ブランケットの端を握る手に手を重ねて、そっとずらすとキスをした。
それは、恋人のキス。
「こんなキス蓮だけだよ」
感情を露にする姿がかわいくて、拗ねてるところも、怒ってるところも全部珍しくて。
好きでいてくれてるんだなって、改めて感じることができてすごく嬉しい。
「もう大丈夫!」
頬に、首筋に、瞼にキスすると、くすぐったそうに笑いながら。
まだまだ、今日は、キスしようと思いながら、たまにはまた、嫉妬させてみようかなんて意地悪なことも考えてた。
end
***
国別のエキシビションをみて。
完全に妄想バージョンで見たらこんな話に。年上彼女にもギャップがあるという設定です。いい意味で対等にもなれるというバランス。