指に触れる愛

□繋いだ手から
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「あー、もう」

今日の取材は4:30までって聞いてた。
だから、余裕があるはずだったのに、時間が押してむしろ遅刻しそうな勢い。

交わしたデートの約束。

それを実現できることが嬉しくて、楽しみで昨日の夜は試合の前並にどきどきした。
なのに、今は急いでいて違うどきどきがすごい。

車で東京駅までは送ってもらい、そこから電車。一応帽子や眼鏡は持ってるし、本当は一日デートが理想だったけど、リスクもあるから夜だけにしようってなった。
一緒にデートできるなら、多少のがまんは必要だ。

電車はそんなに長くないし、夜から僕みたいに向かうわくわくした雰囲気の人や、仕事で疲れてぐったりしてる人でそこまで顔ばれの心配はなさそう。


そう、僕が向かってるのは、日本一といってもいいくらいのデートスポット。


ホームにつくと、誰もが聞きなれた音楽が流れ、それをBGMに階段をかけ下りた。

携帯にコール。

「ついた!」

『見えたから、そこにいて』

まずまずの人波の中、僕の傍によってきてくれた彼女。

いつもと違う、カジュアルな格好。

「蓮がスニーカーはいてる!」

「なにそれ、定番でしょ?」

いつもスーツとか、ジャケットとか、ヒールとかしか見たことなかったから。スニーカーとか、Tシャツとか、なんか新鮮だった。

「お疲れ様、行きましょ。あ、あとこれね」

渡されたのは、Tシャツ。
真ん中に彼女のと同じ柄がプリントされている。それだけで気分が盛り上がる定番アイテムだ。

駅前のトイレで着替えると、すっかりカップルらしくなった。

今日は、彼女が僕をエスコートしてくれる約束。
早くも期待できそう。

モノレールに乗り込む。
彼女、本当は僕の好きなプーさんと思ったみたいなんだけど、園内の広さとか、混雑具合を考えたらもうひとつの方がいいのでは?とのこと。
僕としては、何度も繰り返すけれど、デートができればだし、彼女がエスコートしてくれるだけで嬉しい。

入り口に着くと、僕らと同じ18時からのチケットの人たちが入園をはじめていた。

「はい」

チケットを既に準備してくれていて、手渡されたそれでイン。

「じゃあ、いこ」

彼女が僕の手をひいた。



手を繋ぐ。

そんな普通のことに感動。


でも、ここではカップル、家族、時には友達だってみんながそうしていて、僕たちが浮くこともないし、夜になってきて暗くなってくるとイルミネーションが煌めいてみんなそれに夢中。道幅もゆとりがあるから、ひどく顔を隠したりしなくてもいい。

「なにか行きたいのある?」

夜とはいえ、並ぶところは並んでいて。
行きたいものもあるけど、長時間の列に並ぶとしたらやっぱりリスクが伴う。

どうしようかな、と考えている僕に。
たまたますぐに入れそうだったショーを見ないかと彼女が提案してくれた。
すぐに開演らしいし、始まればばれにくいもんね。

二階席から観劇する間。
彼女の嬉しそうな横顔を盗み見したりして。
もちろん、ちゃんと内容も追ってたけど、それどころじゃなかった。

「どうだった?」

「面白かったよ。ステップもキレキレ」

「帰ったら、やってみてせくれる?」

「なんでそーなんの」

こんな、感想言い合ったりとか。
なんか、全部が新鮮ではじめてに思える。

自然に繋ぐ手も。
当たり前のように、離れては繋ぎ。


綺麗にリアルに作り込まれた街並み。
試合で各地を行き来している僕だけど、それと比べても遜色ないかもしれないと思う。いまはまだ、彼女を一緒に連れていけはしないけれど、いつかは本物の街並みも共にしたい。


なにをするでもなく、ただあるいてる。


「歩いてるだけでも楽しいね」

彼女が呟いた。

歩くだけで冒険気分。
ジャングルの奥地から、アラビア、海の世界。そして、ヨーロッパの街並み。

「お腹すかない?」

「すいた」

「いこ」

ハーバーには、人だかりができている。何かあるの?と聞くと、夜のショーを場所取りしてるらしい。僕らもとりたい気持ちはあるけど、同じ場所にずっといないといけないしな。そんなことをおもいつつ、手を引かれて、隣接のホテルに連れてかれた。

「パークは?」

「いいから、ごはんこっちなの」

予約してくれてたらしいので、隣接したホテルの中。ホテルも豪華で、キャラクターがそこかしこに。

「ほら」

連れていかれたレストランで、席に案内された。

「すごい!」

そこは窓際で一番前の席。
海が一面見渡せる。

食前酒に、飲みやすいシャンパン。
乾杯をしてから、コース料理が次々運ばれてきた。

好きな人と、素敵な夜景。
美味しくて、遊び心があるコース料理。

すこしのお酒でくらくらしてしてしまいそうだ。

前に会ってから今日までのこと、今シーズンの振り返り。
それらをぽつぽつと話ながら。
食事は次々に進んだ。

あとは、デザートを残すのみになった頃。


レストランの照明が落ちた。

「今日のクライマックスよ。どうしても、これを見せたかったの。」

目の前に広がる海もライトダウン。

「すごい」

ナイトショーが、見渡せて。

そこからの数十分は夢中だった。


「メチャクチャすごかった!」

感動で彼女をみると、とても嬉しそう。

「好きな人と此処から見るのが夢だったの」


ここは、夢が叶う場所。

僕にとっても、彼女にとっても。



最後のデザートを終えて。
名残惜しくはあったけど、すごく思い出に残るディナーだった。

「パークに戻る?」

「ちょっとだけ、いい?」

「行きましょ」

エントランスに向かって、人が溢れかえってきていて、戻るのは抵抗がすこしあったけど。せっかくだから、最後にすこしでも一緒に歩きたかった。

人波とは反対に手を繋いで歩いた。


パークを半周したくらい。
もうすぐ閉園になるので、駆け込みしていた列に僕は強引に彼女を連れて並んだ。最後の一組に滑り込む。

彼女が驚いた顔をする。

ばれないように帽子をかぶって、最後までだんまり。最後だから、リスクは少ないでしょ。

いよいよ僕たちの番になって、荷物を置いてくださいねというキャストさんに誘導されて、僕は帽子をおいた。

みんな、気づいたみたい。
でも、ここは有名人がたくさん来るところだから、対応を心得てる。

「優勝記念だから、一緒に写真とってくれる?」

僕が彼にそうゆうと、オッケーとジェスチャーがかえってきて。
はじめてのスリーショット。

そのあとのハグとおめでとうの拍手やガッツポーズをくれて。
おそろいのTシャツの僕らをみて、僕にこっそりハートマークしてくれた。彼女には内緒だよのポーズ。

「なんで内緒なの!」

なんて、彼女はちょっと怒ってたけど。

「男の秘密だよね」

って、二人で盛り上がって。

「ありがと!!」

って、二人で沢山手をふって、さよならをしたら、また帽子をかぶりなおした。


「騒ぎになったらどうするの!」

「そんなにならなかったでしょ」

急に心配そうに怒られちゃったけど、多少で済んだし。

「思い出にしたかったんだもん」

僕は当然のように言った。


無言で手を取り合って。
エントランスが近づくと、もうすぐ終わる。


楽しい魔法が解けるんだってさみしくなった。



「電車でかえる?」

「今日は、一緒にいられるって、約束したでしょう?」

「うん」

夜は、一緒にいることは伝えていた。

彼女が僕の手をひいて、エントランスではなく、またディナーと同じ道を進んだ。


まさか、



「まだ、魔法をときたくないの」


悪戯っぽく微笑んだ彼女に手を引かれて、ホテルに踏み込んだ。


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***

「ヒロイン」でお約束したデート編。
某テーマパークから海です。

行ったことのある方は、詳細も妄想しつつ読んでいただけたらうれしいですね。
考えすぎてめちゃくちゃマニアックになりそうなので、パークの描写は抑え目にしました(笑)






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