指に触れる愛

□君を思い出す
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男が代わると、女は香水を変える。


そんな言葉があったように思うが、まさしくわたしはそれに当たろうとしている。


問題は、それに気づいてもらえるかどうか。
それによって、こちらの出方も変わってしまう。平静を装いながら、どきどきして。どきどきすると、香りが変化するからあまりよくない。

ちなみに、今週届いた新しい香水を数日試した結果。
同僚の女子からは好評価を得ることかできた。
男性にはどう思われていたかは分からないが、時々視線を感じた気がしなくもない。わたしが意識しすぎただけかもしれないけれど。


もうすぐ、また超遠距離恋愛にもどる。
オフシーズンになったとはいえ、沢山あっていたわけではないけれど。
東京や仙台にいたら、気持ち的にはまだ会いやすいような気持ちではあった。


いつものように、宿泊先のインターフォンを押す。

鍵が空いて、手招き。

そのあとはいつもハグなんだけれど、横を通りすぎようとして失敗した。

「なんで無視するかな?」

あっさりと捕まってハグ。
この距離だと、早々にばれてしまう。

「蓮、」

「ん?」

「…香水変えたの?」

「だめ?」



質問に質問で返すのは違反だと思うけれど。

「おいで」

手を引かれて、窓際そばの椅子の上。
何故かわたしは、彼の膝の上に座らされるはめになる。
腰に手が回されていて、否応なしに向かい合って。

「で、なんで変えたの?」

「たまには、違うのもどうかなって」

「僕がいつもの気に入ってるの知ってるでしょ?」

「知ってる」

「なのに変えるんだ」

ストッキング越しに、足のラインを撫でられる。ざらつきとくすぐったさに、身体をよじるけれど、強い腕はそんなことではほどけなかった。

わたしが今日はよそよそしいから、何かあると気づいてる。

「言ってみて」

鈍感な人なら気づかないだろうが、彼はとびきり敏感だ。
仕方なく観念した。


「もうすぐ、結弦はトロントに帰るでしょう?」

「うん」

「そしたら、またすごく遠い遠距離になる」

「だね」

「だから」

「だから?」

わたしは、必死に手を伸ばして鞄から二つの硝子ボトルを取り出した。
そっと、テーブルに置く。

「同じ香水を使うのはどうかなって。」

「いいよ」

「いいの?」

「僕が気に入ったらね。だから、試させてくれる?」

わたしの髪に差し入れられた手が引き寄せて、唇を塞がれた。
このまま雪崩れ込むといわんばかりの強さに、抵抗して。

「ゆづる、シャワーっ、」

必死に訴えて、このままだけは嫌。
その間にも、忍び込んだ手が脇腹をくすぐったりしている。

「無理強いする趣味ないからね。ほら、いっといで」

急にパッと解放されて、背を押された。
そのままバスルームに入って、シャワーを浴びて手入れをして。待たせ過ぎると、また何か言われるかもしれないから、ドライヤーを抱えて部屋を出た。

「交代ね」

ドアの向こうに消える姿、代わりにわたしは部屋で髪を乾かす。
最後に、テーブルに置いていたガラスボトルを一瞥して。
少し悩んで、辞めた。

「なにぼーっとしてんの」

髪の毛を拭きながら、出てきた彼がドライヤーを取り上げてオンにした。さらさらの髪はそーやってできるんだなぁと眺めていたら、『見つめるの禁止』って怒られてしまう。

わたしは、ボトルを取り上げると彼のバスローブの胸元を開いて、シュッと一吹き。
そのまま顔を寄せて、香りを確かめる。トップには爽やかな香り。

「そーきたか」

「あっ」

今度は後ろから抱き抱えられる形で膝の上に座らされて、シャツ型のパジャマの裾を割られる。内腿に一吹き。

「なんでそんなとこっ」

「確かめる約束でしょ」

抱き抱えられて、ベッドにそっと落とされる。
わたしの好きなこの表情で見下ろされると、なにも言えなってしまう。
片足を抱えられて、そこに顔が近づいて付けられた香りを確かめられる。

「最初はなかなか爽やかなかんじだね」

囁きがキスになって、膝から上に。
わたしから仕掛けたはずなのに、追い詰められてる。

「今度はわたしの番」

体制逆転。
わたしが見下ろす形になって、耳朶に噛みついた。耳朶から、頬、唇、次々キスをして。くすぐったいと笑ってるのを無視して、続けた。キスの雨を降らせながら、ローブの紐をひいて。オンナもオトコも気持ちいいところは結局同じ。首筋から、胸元へ。控えめに主張しているそこに口付けた。そのまま、舌で愛撫する。

「ぁ、ぁっ、」

もっと声出してもいいのに。
我慢されると、出させたくなる。

もっともっとわたしの愛撫は降りて、わたしの下で主張し始めた部分へ向かって。通りすぎて、内腿にキス。

「気持ちいい?」

起き上がって、表情を見下ろす。
目を閉じて、少し息が荒くなってる。
たまにはわたしが乱れさせるのも、歳上らしくていいなと思いながら眺めて。
小さく頷いた様子に気をよくしたわたしは、ひとつキスをして、元の下腹部に戻ったら、彼の視線の先でその中心を口に含んだ。

「っ、」

息を詰めたのを感じて。
ゆっくりと上下すると、口内で質量を増すそれが愛しくて益々熱心にご奉仕してみる。
最初に感じた香りは、変化して、官能的に。

「蓮、」

「えっ、」

また身体が反転する。
力では敵わなくて、気づけばまた見下ろされて。

「もう、挿入りたい」

わたしの奥を指で広げられて、確かめたら、『ごめん』と言いながら、繋がった。二人ともが深く息をついて、いつもよりなんだか。
さほど慣らされてはいなかったけれど、そのせいか余計に貪欲で、自分でもぴったりと包んでいることが分かった。意識してぎゅっと締め付けると、わたしの上でまた息を詰める。それを見ていると、嬉しくて愛しくて、わたしも刺激されて、これが抱き合うということなんだなと改めて感じた。

繋がったまま、わたしは彼を倒して、もう一度体勢を変えた。

「今日は、わたしが結弦を気持ちよくしたいの」

律動を始めると、規則的な喘ぎがこぼれる。女性優位の体制は二人ともがどんどん上り詰めて。わたしがよくなると、連動してナカが締まる。

「蓮、だめ。待って…」

「なに?」

「もっと、繋がってたい…」

胸を合わせて、抱き合う。
一緒に居て、ひとつになって。

じっと見つめて、汗で額に貼り付いた髪をはらって、頬にキスをした。
そのまま啄むようなキスが続いて、わたしの身体を優しい手が這う。

同じ香りが二人を包んでいる。


「しあわせな気分だね」

わたしを優しく、もう一度組み敷きながら彼が呟く。
頷いて、わたしも、と伝えた。

ゆっくりしたペースで揺らされて、徐々に早くなる。

「やぁっ、アッ、ぁっ、」

「蓮、気持ちい…?」

わたしが何度も聞いたことを、聞かれる。いつもより、身体が欲しがってる気がして、何度も頷いていた。

「ゆづるっ、気持ちいいよ」

「俺も凄い良い…」

二人のリズムがあわさって、どちらの喘ぎかもわからなくなって。
わたしの奥が締め付けた瞬間、重みが落ちてきた。

荒い息と、熱い身体を抱き止めて。
素肌を合わせたまま、暫く動けずに。

息が落ち着いたら、わたしはベッドを抜けた。




「蓮、帰るの?」

「うん」

それぞれに別の明日の生活がある。
落としたパジャマをひろって、バスルームにもう一度戻って。
帰り支度を整えたら、部屋に戻った。

「結弦、この間は看病ありがとう。お礼が遅れてごめんね。」

「全然看病できてないけど。良くなって良かった。」

「わたし、なんか変なこと言ってなかった?なんか、夢見てた気分だったから」

「言ってたけど、ナイショ」

「なんでっ」

からかわれたのがわかって、わざと不機嫌なふりをして。
笑い合った後、わたしは結弦を抱き締めた。

「わたし、素直になる」

そう、宣言した。
あれから、考えて。
夢心地のなか、微かな声が聞こえていた。それに、優しい手が安心をくれた。


「大歓迎だよ、蓮」

今も優しい手がわたしの髪を撫でてくれる。

「会う回数が少ないし、一緒にいる時間が短い分、へんな意地をはるのは意味がないって気づいたの。」

「うん」

「トロントに戻る前に、会ってくれてありがとう。香水、使ってね」

テーブルに置かれた二本の、一本をわたしは鞄にしまった。

「蓮、」

振り向いたわたしに、キスか降りてきて。

「結弦、良い匂い」

そして、名残惜しく、もう一度キスをして。




その時のわたしたちは、今までで一番近かった。


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