指に触れる愛
□spice of a day
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「あーあ」
わざとらしいくらい大袈裟な溜め息が聞こえてくる。
「なんで今日に限ってこんな大雨になるんだろ」
「仕方ないでしょ、梅雨入りしちゃったし」
せっかくの珍しい休みで、少しでも一緒に出掛けたいと思っていたらしい。
わたしは、有休を取って、休みを合わせた。
しかし、梅雨入りしたこともあり、雨。
梅雨の雨なら緩い雨かと思いきや、今日に限って大雨。
とてもじゃないけど、出掛けてテンションが上がるような天気ではない。
「他にやりたいことはないの?」
「なんだろ」
「DVDでも見る?何か借りてきてもいいし、あるのでもいいし」
「うーん」
「わたしは、なにも見るものがないなら12時からのアイスショーの放送見るから」
昨日まで3日間行われていた何人ものメダリストが参加したアイスショー。
その公演がテレビ放送されることになっていたから、録画予約はしているけれど。
「それはだめ」
「どうして?」
「もっと、二人でしかできないことしよ」
「アイスショー見るのだって、二人でしか出来ない見方があるでしょう?」
わたしはまだまだ、フィギュアスケート初心者。
結弦の演技の解説を聞きながら見るとか、そういうことで理解を深めたりもしてみたい。新シーズンの新しいプログラムだから、一応前回の放送で少しは解説が流れてはいたけれど、そんなに詳しくない私にはまだまだわからなくて。
だから、そういう見所だったりを教えてもらえたら、新しいシーズンからは理解が深まるかなと期待していたのに。
「じゃあ、一緒にごはんでも作る?」
そんなに広いキッチンではないけれど、家で一緒に出来ることのひとつだ。
「それにしよ!」
朝から二人でキッチンにたって。
メニューは夜ご飯のカレー。
「わたしが気に入ってるレシピがあるの」
たっぷり玉ねぎを使った、野菜の甘味が感じられるカレーだ。時間がかかるけれど、それを食べてもらいたい。一緒につくればきっと楽しいだろう。
玉ねぎをひたすら切るわたしの横で、そんなわたしをじっと眺めてくる。
こんなに料理してるのを見られるのは初めてだと思う。いつもは下ごしらえは終えていたりとか、すぐできるものしかしない。
切り終えた野菜を炒めるのをお任せすることにして、ここからはそれぞれの作業。
わたしは引き続き、野菜をカットしたり、肉の下ごしらえも。
「なんか、面白いね」
わたしは、そう言った。
なにが?と聞かれる。
「だって、それぞれが自分のやることをちゃんとやって、それがあるタイミングで合わさって、おいしいカレーになる。なんか、理想的。」
そういって、隣の顔を見上げる。
「ここから、四時間煮込みます」
そうして、鍋を弱火にした。
「じゃあ、蓮」
呼ばれたら、身体に浮遊感。
抱き上げられて、ベッドの上。
「なに?」
「二人でしか出来ないことしよっか」
「なんでそーなるの?」
背には、ベッドの感触。
今にも組み敷かれる距離。
「だって、蓮が誘うから。」
「いつ?!」
「わたしもカレーみたいに、結弦と一つになりたいわって。」
「言ってない!」
彼は意地悪に笑いながら近づいて。
そんな意味深なことなんてちっとも言ってないのに。
「カレーだって混ぜないといけないし」
「後で混ぜたらいいよ」
「でもっ、」
「もう黙って」
完全に背はベッドのスプリングに沈んで、脇腹から手が忍び込んでる。
キスで唇を塞がれたら、なにも言えなくなる。
「俺が蓮と一緒になりたいの」
その言葉に、わたしは観念した。
意外と真剣な響きだったから。
昼間から抱き合う趣味はないけれど。
大雨で空は暗くて、雨音もひどいから、すべて隠してくれる。
手を伸ばして抱き寄せたら、わたしからキスを深くして。
仕返しの様に、Tシャツの裾から忍び込んでくすぐる。そういえば、アイスショーの衣装は試合の時よりラフなものもあって、ジャンプやスピンの時に腰のラインが見え隠れして。わたしだけの聖域ではないんだなーと思うと寂しい。
逆転して組み敷いたら、腰にキスをした。そこから、舌でなぞって上へ。どんどん踏み込みながら、丹念に愛撫。
頭からシャツを引き抜いたら、露になった鎖骨にキスをした。
キスマークって付けれるのかな、と思い付いて、支障がなさそうな部分に強く吸い付いてみる。
「だめね…」
「もしかして、キスマークつけようとした?」
「でも、、無理だった」
「お手本見せてあげよっか?」
あっ、と声が出る間に。
わたしのシャツが引き抜かれて、露になった胸元に強いキス。
「ほら」
わたしの胸元についた痕。
それを嬉しそうになぞりながら、身体のあちこちにキスされて。
「ズルい。なんで結弦だけ成功するの?」
「俺の特権だから、いーの」
この嬉しそうな笑顔に弱い。
わたし達が一緒になるために。
指先がわたしの奥を探り出す。わたしも手探りで、彼を愛撫して。
「あっ、んんん」
唇が降りて、敏感な部分を吸われたり刺激されると駄目。
わたしの中が、グズリと溶けてく。
わたしは、もう、かき混ぜられるのを待ってる。
「結弦、はやく、わたしを混ぜて…」
「なに、そのエロいセリフ。」
楽しそうに笑って。
「そんな可愛いの、俺の前だけにしてよ?」
そう言ったら、深く繋がって。
それだけでも満たされて、抱き締める肌の感触が心地よくて。
「やっ、ン、」
「蓮、いいよ…」
抱かれながら奥の奥で繋がって、締め付けて。
中がかき混ぜられて、音を立てる。
逢えない時間が長いから。
寂しさや焦がれる気持ちを埋めるように、抱き合って一緒になる。
「蓮…」
呼ばれたら、最後。
二人ともが息を詰めて。
わたしは、大好きと言葉にした。
「美味しい」
コトコト煮込まれ続けたカレーもなんとか出来て。
「玉ねぎがすごくたっぷり入ってたのに、とろとろになってるし、甘味がすごいね。」
「良かった」
野菜ごろごろカレーとはまた違ったカレー。
カレーやさんのカレーみたいに、一見、なにも入っていないルーに見えるけれど、細かく野菜が煮込まれていて。肉だけは存在感を出している。
「蓮みたいなカレー」
「わたし?」
「だってさ、俺にとって人生のスパイスで、甘くて優しいから。」
「じゃあ、わたしには結弦みたいなカレーね」
平凡なわたしの生活を変えた人。
人生のスパイス。
でも、優しくて甘くて、癖になる。
「せっかくの休み、出かけられなかったわね」
「でも、蓮と一緒に居れたらいいからさ」
穏やかな一日。
甘くて少し辛いカレーと、甘い甘い恋人と。
雨はいつの間にか上がって。
夜空には細い月が出ていた。
end
***
ice部屋初のキリ番リクエスト!
ライム様から、梅雨のおうちデートです!
いかがでしたでしょうか。
なんか、あるあるネタになってしまった感がありますが。
リアルと混ぜた設定にしてみたり。
妄想しつつ、カレーを見るようになってしまったらどーしようと思ってます(笑)
ライム様、ありがとうございました!
また機会がありましたら、是非リクエストしてやってくださいませ!