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□コード・ブルー
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「苗字先生」
病院の廊下。
定期検診に来て歩いていると、その背中を見つけた。
「羽生くん、久しぶりね。定期検診?」
「えぇ」
「体調はどう?」
「大丈夫です。でも、シーズンが始まってしまうと、思い通りに行かないこともありますし、ちゃんとしておかないと。」
僕がお世話になっていたときには、白衣姿だったけれど、今は専用の制服。
「苗字先生、救急に行かれたんですよね」
「そう。頼まれたからね。」
ドクターの中では若い部類の先生は、腕が良い。
僕もシーズン中に色々あったときに担当してもらった。
手術の腕は確かで、傷も小さくてでも確実に治してくれたから信頼している。
だから、救急の一刻一秒を争う現場ではきっと役に立っていると思う。
でも、異動してしまったら僕はもう診てもらえない。
もう沢山話をすることも出来ない。
「僕も、苗字先生に診てもらいたいのにな」
「なぁに?わたしは嫌よ」
「どうしてそんな事言うんですか」
「だって、元気にスケートをしてほしいでしょ?診察するってことは、良くない所があることになっちゃうし。わたし、羽生くんのスケートを見るの好きなの」
“好き”なんて、言わないで。
僕の好きはその好きとは大分違う。
完全な片思い。
「今度…」
「ん?」
僕が思いきって伝えようとしたとき、先生の院内PHSがコールされた。
「はい」
電話の向こうからは切羽詰まった声が聞こえてきて、呼び出しだと分かった。
「すぐに向かうわ」
切るとすぐに。
「ごめん、羽生くん、またね」
先生は走り出しながら僕をまっすぐに見た。
スイッチが切り替わったキリリとした瞳が、そのオンとオフの両方が惹かれてる所のひとつで、僕はまた片思いを重ねた。
先生が去ってしまった廊下、僕は診察室の前で順番を待つ、その窓の外。
先生の乗ったであろうドクターヘリが、大きな音を立てながら夏の空に消えていった。
***
コードブルーを見てて萌えて。
医者との恋ってどーでしょーという妄想。