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□コード・ブルーV
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「先生」

玄関先で患者さんを見送っていた私に、日本語の響きが飛び込んできた。
振り向いたそこには、細身の男性が立っている。


「結弦?」


思わず声に出してしまってはっとするが、誰も気にする人はなかった。


トロントだから。
そして、此処は私がレジデントとして異動してきた病院の中。


羽生結弦は世界的に有名ではあるが、日本とは違うし、周りの目だってまた違う種類だ。日本よりはいい意味で。

「久しぶりね」

「ほんとに、トロントに居るんだ」

「そうよ。誰かさんが怪我で逢えない間に、ちゃんと一人で来たわ。それなりにやれてるのよ」

わざと、軽いトーンで伝える。
私がこっちに飛んだのは年明けで、その頃の結弦は怪我で連絡もほとんど取れなかったし、どうしているか全然わからなかった。


何ヶ月ぶりかの結弦を見ながら、とりあえずは元気そうな様子にほっとしてる自分に気付く。


「どうしたの?」

本来ならこんなところで彷徨いていいわけない。
そして、人目を人一倍気にしなくてはならないと分かっているはずだから、理由なくこんなところまでは来ないだろう。


「あのさ、」

「ん?」

「今日、名前さんのとこ、行きたい」

「大丈夫なの?」

無意識に周りを見渡してしまったのは、付き合うようになってからの変な癖かもしれない。聞かれないように、変に見られないように。

「てか、こっちきてからどこに住んでるのかとか全然知らないから、あれなんだけど」

「そうね」

「、ダメ?」

自分の方が背が高いくせに、なんとなく上目遣いにも見える視線で訴えてくるのはほんとにズルい技だ。

「結弦が良いなら」

わたしはそう返事をすると、定時を伝えて、待ち合わせ場所を指定する。
まだそこまでこっちに慣れているわけではないから、分かるところで待ち合わせないと逢えない気がした。

こんなタイミングで、逢えるとは思っていなかったから、少なからず喜んでいる自分がいる。


「じゃあ、後でね」


夕飯、なにがいいか考えてて。と続けて、小さく手を振ると私たちは別れた。


今日は残業出来ない。
日本とは仕事に対する価値観が違うけれども、患者さんが来てしまえば待ってはくれない。だから、今日だけは何もなく終えることが出来るようにと、らしくなく祈るような気持ちで医局に戻った。




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