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□大切な手土産
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「おめでとう」


僕が玄関を開けると、出迎えてくれた名前さんはそう言った。

「ま、とりあえずって感じだけど、良かった、かな?」

納得いかないところはあるけれど、とりあえず初戦は優勝できたわけだし。


今日は久しぶりに名前さんにも逢えた。

荷物の一つを持ってくれる後ろ姿も久しぶりで、頬が緩むのを抑えられない。


「最近、病院はどう?」

「まあ、順調よ。病院は忙しいと良いってものでもないし」


名前さんはこっちの生活にも慣れて、時々病院の人たちと休日を過ごすことも出てきたらしい。いつも通るカフェの人とも話したりしてるのを見たこともある。

こっちに来たときは、知り合いは僕しか居なかったのに、どんどん世界を広げる名前さんが大人過ぎて僕は少し不安だ。

僕を頼りにしてくれた頃が終わるのが嫌。

「夕飯まだだった?」

「うん」

「よかった」

そう言って出てきたのは、僕の好きなお手製オムライス。
久しぶりのその味に、なんだかほっこりした気持ちになる。シーズンや遠征中は身体作りが大事で食生活はちゃんとしないといけないけど、こういうメンタルの安定に必要な食事ってのはあるよね。

「これ、お土産」

お土産なんて渡すの初めてかもしれない。
たまたま見つけたチョコレートを手渡すと、名前さんは嬉しそうで、『あとで珈琲と一緒に頂くことにするね』といった。

そのあとは、僕がポツポツ喋りながら、名前さんが相槌を打つ。こういう時間がすごく大切で、こうやって自分が感じたこととか、考えてたことを取り留めもなく話しながら、自分の中が整理されていくような気がした。

意外と、名前さんって精神科医もいけるんじゃないのって思う。

ま、僕限定かもだけど。

「名前さん」

「ん?」

「もっかい、おめでとう言ってよ」

「優勝おめでとう」

「うん、」

名前さんのその言葉を噛み締めて、それから、またおめでとうが聞けるようにがんばろって思えた。

「また、ヘルシンキでお土産買ってくるよ」

そう言った僕に。

「元気でスケートしてくれるだけでいい。それで、たまに、私のところに戻ってくれたら。」

医者らしい一言と。
それから、少しだけ垣間見た独占欲に。


僕は、心から、この人にヤラれてるって思った。




end



***
だいぶ遅くなりましたが、オータムクラシックからの。







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