inside of a glass

□Whisky Today
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彼氏に昇格して、家に来るのは三回目。

バスタブから上がって、脱衣場の中で僕は一瞬それをじっと見つめた。

「これ…」

いつもバスタオルはさすがに借りていたけれど、寝るときは僕の手持ちのスウェットを着るようにしていた。
でも、今日は入る前に置いていたスウェットの上に、真新しいパジャマが置かれている。

入ってる間にそっと置かれたのであろうそれに、そっと腕を通す。ちゃんとサイズは合ったもので、着心地のよい長袖パジャマだ。
それに、良く見るとさっき名前さんが風呂上がりに着ていたものと色ちがいのものだと気づいた。

着ずに済んだスウェットを抱えて、ちょっとどきどきしながら部屋に戻る。

「名前さん、これ」

「サイズ、大丈夫だった?」

部屋に戻ると、スウェットを置いて、これと言いながら両手を少し広げる。
やっぱり、名前さんのと色ちがいのパジャマで、いわゆるお揃いだ。

「ぴったりだった」

「よかった」

隣に座って、しみじみふたりのパジャマを見比べたり、肌触りを確かめたりしてみた。

「これ、どうしたの?」

「テレビで快眠には年中長袖パジャマを着るのが良いってやってたの。それで、信成の監督就任祝いもしてなかったから、家族みんなのパジャマを贈ったんだけど、それと一緒に。着てみると寝やすいし。」

そういう情報は知らなかったし、やっぱり身体を休めるにはまず眠りが大事ではあるから、考えてくれたのは嬉しい。
でも、ちょっとついで買いかってところと、出てくる名前に嫉妬してるところもある。元はといえば、こうなれたのはその人たちのおかげなんだけど。

「あと、」

急に名前さんが、ちょっとだけ恥ずかしそうに。

「いつも、荷物大変でしょ?おいておけるものは、置いててもらっていいから。パジャマとか、他にもあれば」

その言葉に、なんか認められたと言うか。名前さんのテリトリーに僕のスペースを作って貰えるのが嬉しい。

襟元から覗く素肌と、ふんわりと身体を包むパジャマの奥が気になって触りたくて仕方なくなる。

「ね、キスしていい?」

僕は、ためらいがちにそう聞いて、おずおずとほっぺたに触れた。名前さんが、こっちに顔を向けてくれて、そっと目を閉じるのを見つめてから、僕も目を閉じる。唇が触れるだけでどきどきして、離れてはまた触れて、そっと息をついた名前さんの口内にそっと舌を差し入れた。

「ンッ」

その声に、もうキスだけじゃどうしようもなくなる。そっと首筋に触れた。

「名前さん、俺、」

こういうことにまだまだ慣れてなくて、なし崩しにいっていいものかも悩むし、かといって上手い誘い方も分からなくて。

「恋人に服を贈る意味を知ってる?」

「えっ、」

「着ているのを、脱がすためよ」

僕の躊躇いをリードするようなその言葉に、一気に理性が飛んだ。

ベッドに押し倒すと、駆け引きできずに裾から手をいれて、柔らかい肌に触れると一層柔らかい胸にたどり着く。周りに触れて、それから中心へ。確か名前さんは舐められると反応がいい。そうするために、僕はボタンを外しにかかった。
スマートにしなきゃ、その気持ちが強いからなのかなかなか上手く外れてくれない。おなじタイミングで僕のボタンに手をかけていた名前さんが、僕にキスしてきて、それを受け止めている間に名前さんは自分のボタンもはずし終えてた。なんか、情けない。
脱がされたシャツと、ズボンは自分で蹴っ飛ばして、今度こそとおへそにキスしながら名前さんのズボンにも手をかけて少し手伝われながらもベッドの下に落とした。

「わたしも触っていい?」

鎖骨や胸に噛みついている僕の上から、名前さんが聞いてくる。

「ダメ、俺がするんだから」

ぶっきらぼうにそう言ってしまう。
だって、名前さんに触られたら、気持ちよすぎて多分されるだけになってしまう。そんなんじゃだめだ。

「名前さん、痛くない?大丈夫?」

奥に指を忍ばせる。
濡れていることにほっとしつつ、少しずつ進めていくけれど、女の人の身体は複雑で心配になる。上手く出来てる?気持ち良くさせられてる?って。

「なんて顔してるの?」

「えっ、」

「わたしとするの嫌?」

そんな不安そうな顔して、って。
これでいいのか分からなくて、ひどい顔だったのだろう。嫌だなんて、全然なくて。嬉しさに身体がついてってなくてもどかしい。

「嫌じゃない。すごく嬉しいんだけど、俺、ちゃんとできてる?名前さん、ちゃんと気持ちいい?」

早口で聞いてしまう。
そんな必死な僕に、名前さんは笑った。

「気持ちいいよ。だって、わたし、」

名前さんの指先が、僕の中心に触れる。くっ、と思わず息を詰める僕に構わずスライドされると堪らなくて名前さんを見つめた。
ベッドサイドから四角いパッケージを取り出すと僕に差し出しながら、「きて」と体勢を整える。

「わたしの方が歳上だから、とは思うけど、女から誘うのってやっぱり…」

僕を待ちながら、両腕で顔を隠すのは恥ずかしい自分と戦ってるのかなって片隅で思いながらも、気遣う余裕もなく。

「名前さん、」

顔が見たくて、両腕を外しながら繋がった。
手とは比べ物にならない締め付けと、熱と、それから、好きな人が受け入れてくれてるとか、ひとつになれて嬉しいとか色々が僕を包んでいる。

「あっ、ぁっ」

僕が進むと漏れる声に、快感が感じられる。その声だけで高ぶる僕は、腰を動かした。

「名前さん、キツいよ…」

ん、ん、とどちらの声か分からない喘ぎと、男の身体は単純で勝手に追い詰められて、もう来そう。

「名前さん、名前さん、俺もう…」

「結弦、」

「くぅっ、」

名前を呼ばれただけで、僕は達してしまった。
柔らかい身体の上に脱力して、そのまま横に転がる。息を整えたら、だるい身体を一応起こして見られないように背を向けた。

「ありがと」

床に落ちていたパジャマを羽織直していた名前さんが、僕の分のも肩にかけてくれる。せっかくのパジャマを着直して、横に並んだ。

「名前さんのこと、イかせられなかった」

僕は盛大に拗ねたい気分。
現実はなかなかアダルト動画みたいにはいかない。まあ、それが正しいのかは分からないけど、知識をいれるにはそーゆーのしかない。

「スケートみたいに、場数を踏んでいけばいけるんじゃない?でも、」

「でも?」

「他の女で練習とかダメだからね」

名前さんが突然見せた独占欲に、また熱が上がりそうになるのをグッとこらえながら、

「名前さん以外となんて、したくない」

そう応えた僕に、名前さんが、小さくキスしてくれて、もう一回キスを強請った。








次の家でのデート。

「はい、これ」

僕は、紙袋を差し出した。
なに?と中身を開けるのを眺めながら。

「新しいパジャマ。僕のももう一着置きたかったし。今日はそれ一緒に着よ?」

「ありがとう」

パジャマを撫でて、肌触りを確かめている名前さんに。

「恋人に服を贈るのは、脱がせるためだから。」

僕がそう言って誘うと、名前さんは少し紅くなって頷いた。

「そんな誘い文句も、わたしだけにして」

パジャマをぎゅっと胸に抱く姿に、背を屈めて少しだけ深いキスをした。




end








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