inside of a glass

□Robert Burns
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「信成、ズルい」

もう何度もテレビ越しに、解説で出ている信成を見てきたというのに、自分の口からこんな言葉が出るとは思わなかった。
こんな言葉を発してしまうくらい、わたしは夢中なんだろうか。それは、出来れば認めたくはない。アラサーの女が、割と年下の子に夢中だなんて。

前のシーズンが終わって、アイスショーも終わってしまってからは会うことはなくなる。わたしは各国に応援に行ったりはしないし、自分で決めたこととは言え、試合に行くことも諦めた。

見慣れた親友の顔。
面白いくらいくるくる変わる表情には、今は笑顔が浮かんでいる。

二日間の試合日程が終わって、残りはエキシビションを残すのみ。

選手たちの表情も和らいで、その中にはもちろん。
ジャージを脱ぐ姿が話題になるくらい些細なことでも大きなネタになるような人に、イチイチ感情を動かされていては身体も心も持たない。

「次は日本か」

結局、取ろうと思っていたチケットは全て厳しくて、それだからこそ諦めもついたわけなのだけれど。

テレビのなかでは、その親友がここ数日ずっと彼の練習を見てきた感想等々を述べていて、まあ、それは仕事とはいえ…と言いたくなった自分に呆れ返って、そんな自分が嫌になってチャンネルを変えた。


でも、また録画を見てしまうだろう。


クイズ番組が流れるなかで、わたしは親友に「おつかれ」のラインを送った。








それから、何日も後。




トーク画面の下の方で見えない位置だったその名前が、急にメッセージを告げた。


何故か少し緊張しながら開けた内容は、スケジュールと約束。


それに、敢えてそっけない雰囲気で一言二言返した。
どう返せばいいのか、まだ大人になっていない自分に気づかされる。

気まぐれなメッセージだけで、こんなに揺さぶってくる年下の彼は心臓に悪い。それをわかりつつ離れられない自分は、本当に末期だ。

身体を磨いてもまだ心は迷いがある。

その時、テレビから映画のCMが『この世の中に好きになっちゃいけない人は居ない』という台詞が流れて、その言葉が胸に刺さった。




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