inside of a glass
□Sherry
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Klndike Highball後の話です。
***
食事もお風呂も終えた休み前の20時半。
適当なバラエティ番組を眺めながら髪を乾かしていたわたしの部屋のインターフォンが鳴った。
ネット通販は頼んでなかったし、届くような荷物も思い当たらない。
「はい」
この格好で宅配の応対は嫌だなと思いながら、居留守をするのも申し訳ないからとりあえず出る。
「名前さん、結弦です」
画面に映るのは暗い画面にマスク姿の結弦だった。
今日来るとは聞いていない。
最後に逢ったのは都内のホテルで、やや気まずい別れ方をして、「次は前もって連絡するから」と言われたはすだ。
「開けるから待って、」
エントランスをとりあえず開けて。
部屋まで来る間に、不意打ちの訪問に自分でも驚くくらい真っ白になっている。
とりあえず、休み前で掃除も大してしていない。他にも、なんというか心の準備とか。もっと違うルームウェアを着るとか。
そんなことを考えている間に、玄関のインターフォン。
鍵を外して、ドアを開けると、さっき見た姿が目の前に現れた。
「お疲れ様」
「急にごめん」
明るい中ですっぴんを晒すのも恥ずかしい。別に見られるのは初めてではないのだけれど、そういう関係になってからとでは気持ちが違う。
そんな私に気づいていない様子の結弦は、荷物を引き入れながら部屋に入ってきた。
「何か食べる?」
「食べてきたから大丈夫」
「泊まってく…のよね?」
「うん」
「じゃあ、お風呂は?」
「入る」
「温めてくるね。」
こんな時間に来ておいて、帰るなんて普通ないだろうことは分かってる。それでも、聞いてしまったのはまだ、気持ちが固まってなかったからだろうか。
洗面所でバスタオルを取り出しながら、覚悟を決める時だと感じながら、鏡に映る自分は不安な顔をしていた。
戻れない一歩。
「ぼんやりしちゃって、名前さんも一緒に入る?」
鏡越しに結弦が現れて、そんな大胆な言葉をかけてくるのに驚いた。
「さっき入ったし、大丈夫。結弦、そういうことするんだ?」
「分かんない、したことないし。」
「ふぅん。」
「名前さん、したことあるの?」
「さあ?人並みじゃない?」
茶化してくるような台詞に、わたしも誤魔化すようにな茶化すような言葉で応えながら、見上げた結弦の表情は言葉とは裏腹に真剣だった。
「風呂借りるね」
上着を脱ぎ始めた背中を見ることが出来なくて、結弦を残してわたしは部屋に戻った。
恐る恐るわたしに触れてくる結弦と、大胆なのか強がりなのか踏み込んでくる結弦と。
どっちが本当の結弦なのか。
わたしはリードするのかされるのか?
恋人とそうなるのは初めてではないし、好きだからそうなりたい気持ちもある。
でも、そうなったら最後、わたしはもう結弦から離れられなくなる。
初めて大人の階段を上る夜の気持ちを思い出しながら、この後の事を考えないように努めた。
end