inside of a glass

□Morning Glory Fizz
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「結弦らしいわね」


袴姿の僕が、フラッシュを浴びながら記者の質問に答えている。
“らしい”といったのは、ナレーションで記念品を辞退したことを言われたからだろうか。

表向きの理由は、ナレーションで言っていたようなことだけれど、実際欲しいものと聞かれても困るし、浮かばなかった。もちろん、表向きの理由も本心ではあるけど、そういうのもあって、辞退という形になったわけだ。


名前さんは、テレビに映る袴姿なんかを褒めながら、目の前の僕に視線をくれる。でも、その視線は時々見せる“遠い人を見るような”それだった。

隣にいるのに、って焦燥が湧き上がりそうになるその視線に、僕は少し悲しくなる。



「あ、」


僕のあとにいくつかニュースが流れた後。
名前さんの視線が僕から画面に戻ったのは、先輩スケーターの復帰会見だった。


ふたりにとって、それぞれに先輩だ。


それは分かってる。


名前さんの口角が自然と上がって、そっと微笑みを作る。画面を見る瞳はどこまでも穏やかで、あれは数ヶ月前、一緒に皆で食事したときの事が思い起こされた。


久しぶり、だったって聞いたけど。

世の中、なにがキッカケになるかわかんないから。

「気になるの?」

「だって、信成のもそうだけど、大ちゃんのスケートも見てきたし、楽しみなのは、楽しみかなって。まあ、見てきたって言っても、わたしなりにだけど、」

そう言いながら、懐かしむような瞳が画面には注がれて、また唇は微笑みを作った。


僕は欲張りなのかな。




「あ」


僕はリモコンを引き寄せて、無理矢理に夜のニュース番組を終了する。

驚いてこちらを向いた名前さんの肩をとん、と押していた。


「記念品に欲しいものが出来たんだけど」

「ぇ、」

「今の名前さん」

「結弦?」


おかしな事を言ってると思う。
でも、どんなすごい賞を貰っても、どんな貴重なモノを貰っても、敵わないものがあって。
それは、今は腕の中にいても、ずっと僕だけを見ててくれるか不安定なものだから、違う人に微笑んでるだけで不安になる。

だから、何回も何回も振り向かせて、確かめておかないと。


「ばか、」


僕の焦りを察したのか、名前さんは小さくそう言うと僕を抱きしめてくれた。


「そういうの、ちょっと嬉しいかも」

「どこが?」

肩口に顔を埋めている名前さんの声が、嬉しいとか言い出す。
僕はこんな自分が格好悪くて、嬉しいって言われる意味がわからない。

「わたしの方が好きなのかなって、いつも思ってるから」

「それは俺でしょ?」

つまんない嫉妬で無理矢理に押し倒されながら、そんな可愛いこと言うのとか、ホント何考えてんだろって思う。

首にしがみつく身体を、最後の理性が、ベットへと運ぶまでは保ってくれた。



「ぁ、」


ベットに下ろした身体の、シャツの裾から手を入れる。


この素肌に触れる瞬間が、何気に幸せだと言ったら、どんな顔をするだろう。
そんな事くらいって笑うかもしれないけど、ホントのこと。

キスを重ねながら、胸を覆っていたそれを引き下げて、弱いところに触れた。


「ね、結弦、シャワー…」


名前さんが急に思い出した様に静止の言葉をかけてきたけど、ここまで来て、戻るのは無理。もう、その気になってるんだから。


「だーめ。じゃあさ、あとで、一緒にはいろ?前に約束したじゃん」

「そんなの、してないと思う」

「したでしょ?じゃあ、してなくても、はいろ」


背中に回した手でホックを外して、こんなことが出来るようになった自分がちょっと恥ずかしくもあり、誇らしい気がする。
シャツを取り去ったら、胸元にキスをした。


背中がしなって、僕の一つ一つの愛撫に感じてくれるのがすごく嬉しい。

名前さんの手が、僕のシャツを脱がそうと彷徨って、それがちょっと邪魔だったから自分で脱いだ。
そしたら、残念そうな顔と目があって、でも、僕の身体に触れてくる。


前の僕なら、触られるだけでイッパイいっぱいだった。

でも、男の僕も日々成長しているわけで、触り合いっこを楽しむだけの余裕だって、少しはある。


「最近さ、」

「ん?」

「五輪が終わって、治療とかはあるけど、名前さんと逢える回数増えたよね」

「前が、少なすぎたんじゃない?」

ベッドに転がった身体を後ろから抱きしめながら、指先で弱い部分を苛めつつ、そんな穏やかな問いかけをする。
僕の愛撫に細かに震えながらも、名前さんはそんな意地悪な返事をする。

普通はどのくらい逢うものか分からんないから、あれだけど、今も多くはないだろう。

でも、それにしても前は少なすぎだ。

「名前さんの身体も、俺のこといっぱい覚えてきたでしょ?」

片ももを引き寄せて、足の付け根を愛撫する。胸と付け根の敏感な芽を同時に刺激すると、身体が震えだした。

「ゆ、づる、ンン、ぁ」

いつもより、良い反応に僕は驚かされる。

「もしかして、ィきそ?」

「ぁ、ぁ、」

そのまま続けて辞めることなく擦ると、小刻みに震えていた身体が跳ねて、体重を預けてきた。

初めてだ、名前さんのこういう姿。

まだナカにも触れてないのに、前戯だけで達してくれたことがすごく嬉しい。それを言葉にすると怒られそうだから、言わないけど、でも。
こんな可愛いのは、早く繋がりたくなるからズルい。


「名前さん、」


指先を奥に埋める。
すぐの身体にはツライかもしれないけど、僕が早く欲しくなっちゃったから。

融け出したナカが、僕を欲しそうに指を締め付けてくる。足りなさそうに、収縮して、奥に誘う。その間に、押し殺した喘ぎがまた溢れ出した。

「声、出してよ。ね?」

かんじてる声が聞きたいし、余裕のない声で僕の名前を呼んでほしい。


僕の腕を掴む手のひらにギュッと力が入って、ナカも蠢いて。今度は、ナカでも好くなるところなのかもしれない。

今日、すごく感じてくれてる。

女の人の身体は複雑でよくわからいところもあって、いつも好くしてあげれるわけじゃないから、すごく嬉しい。

「俺のこと、入らせて」

頷くのを確認して、ゆっくり進む。

感じてくれた分、それが自分にも返ってくる。

「結弦、待ってっ、」

「無理だよ」

ナカがうねって、僕を引き込む。
制止を聞けないくらい、そして、ナカが名前さんの呼びかけとは裏腹に僕を呼び込むのも悪いんだ。

「名前さん、気持ちいいよ」

身体で覚えている名前さんの好きなところを擦れるように体制を整えながら、唇を合わせた。手のひらを胸に当てると、ドキドキが伝わって、唇も手も肌も全部繋がってるのがたまらない。

「ぁっ、んんっ」

「ぅン、俺、ぁ、」

会話が成り立たなくなって、何も考えられなくなる。

ひたすらに身体を合わせたら、目の前が真っ白になって、柔らかい身体をキツく抱きしめながら果てていた。






「もぅ、」

隣では、名前さんが気絶するように眠っている。
その頬をツンと押しながら、僕は見つめていた。


「名前さん、」


名前さんが思ってるより、僕は今の生活に浮かれている。
前よりいっぱい逢えるようになって、一緒に食べるご飯も、こうやって抱き合うのも増えたことがすごく嬉しい。外でデートとかはなかなか難しいけれど、なんてこと無い時間を過ごすことが一番の贅沢のような気がしていた。

机の上に載ってるフリーペーパーには、ジューンブライドの文字。

そういうのに、近頃目が行くようになったのは、自分の中の目標がひとつ達成された後だからかもしれない。


「待たせるの、良くないよね。」


まだ、もうちょっとタイミング図らせて。

そう思いながら、ふにふにのほっぺたにキスをすると、僕も満たされた気持ちで肌を寄せた。



「朝、風呂はいろーね」


勝手に約束して、ウキウキしながら僕は目を閉じた。






end







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