Short
□O-1
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「ねぇ、人魚っていると思う?」
「なんだ、突然」
私の前に紅茶を置きながら、彼女は唐突にそんなことを言った。
「深い意味なんかないわ。聞いただけ。」
そのまま私の前に座り、紅茶を一口含む。
「人魚というのは…あれか?人間の王子を好きになった人魚姫が、最後は恋が叶わず泡になる話か?」
私が知っている人魚の話は確か、そんな悲恋物だったかと思う。
「それはおとぎ話ね。海賊の世界ではこうよ。人魚はホントは肉食で、美しい姿や歌で海賊を誘惑して…海に引きずり込んで食べてしまうの。」
「それは初耳だな。」
「まぁ、出来れば聞きたくない話だわ。そのおとぎ話も哀しい話だけどね。」
「で?結局何が言いたい。」
「んー、人魚が居たら、私の兄さんは食われるかしら?とか?」
あぁ、お前の兄は海賊だからな。
だが、ホントに何も考えていなかったんだろう。たまたま思いついたことを聞いてみただけという感じだった。
「人魚などに相手を求めなくても、他にいるだろう。お前の兄ならな。」
「確かに。じゃあ、エリックは?」
面白い質問を見つけたかのように、彼女はそう言った。
「そうだな…。」
私は、立ち上がり彼女の傍に寄った。
見上げてきた顎を持ち上げて至近距離に寄ると、「お前が人魚なら、喰われてもかまわないかもな」と言った。
「私、歌は無理だから、誘惑出来ないわね。」
さも残念だといった仕草で、肩を落として見せる彼女。そんな他愛ない会話すら、私には貴重なものだと思う。彼女と出会う前なら、私の話し相手はアイシャ位だったのだから。
彼女に喰われるのも、彼女が泡になるのも御免だ。どちらにしろ、一緒には居られないのだから。
「人魚とは居ないが、化け物とならこうしているじゃないか。」
私が自虐的な意味を含んだ言葉を呟いたからか。
彼女は今度は酷く怒った後に…。
「貴方が人間だから、一緒に居られるのだわ。」
そう囁いた彼女は微笑んで。
こうやって、彼女に受け入れられている私は、なんでもないような日常にふと幸せだと思う訳なのだった。
***
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「パイレーツ・オブ・カリビアン」からのネタです。