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□M-2
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「ピーチ・メルバってデザートを知っているかしら?」

ディナーの後、ソファでくつろいでいた私に、珈琲を持ってきた彼女がそう言った。

「生憎、甘いものはそれ程詳しくはないよ。知っているだろう?」

苦笑しながら返事を返す。
差し出された珈琲を受け取り、気分を損ねてしまったかと伺ったが、そうではないようだ。

「ピーチ・メルバってね、有名なシェフがネリー・メルバとゆう歌姫の為に作ったデザートなんですって。」

私の隣に座った彼女はカフェラテを飲みながら説明をしてくれた。私が知らなかった事を気にした様子もなく、笑顔だ。

「でね、良ければ一緒に食べて貰える?」

小首を傾げて、彼女はそう問いかけてきた。
やや上目遣いに私を見上げるアメジストの瞳に断れるはずもない。

「構わないよ。」

「良かった」

私の返事に、彼女は微笑んでキッチンに戻っていく。
トレイには綺麗に盛られたデザートがあったのだが…

「ピーチ・メルバは桃のデザートではないのか?」

私の前に置かれたのは、白と黒を基調にしたデザートだった。隣には紅いソースが添えられている。なんだか、あまりにイメージと違うので少々驚いた。

「これはピーチ・メルバではないわ。私が貴方をイメージして作ったものよ。」

「私を?」

白い仮面と、好んで着ている黒。
紅のイメージはどこから来ているのだろうか?
そんなことを考えていると、彼女は言葉を続けた。

「貴方は歌姫ではないけれど、私の素敵な歌い手だもの。ふふ、どうぞ、召し上がれ」

楽しそうな彼女。
嬉しい言葉が混じっていることと、彼女の笑顔にくすぐったい気持ちになった。


スプーンで一口。
黒はエスプレッソ、白はミルクをベースにしているようだな。紅は、ラズベリーのソースらしい。

「美味いよ、ありがとう。今度は…私が何か作ろう。」

「ほんと?」

「あぁ。お前こそ、私の歌姫だからね。」

「…エリック…」

私の言葉に、赤く頬を染めた彼女を見ながら。
ささやかな幸福の中で食べたそれは一層甘く感じられた。


***


前回と同食べ物ネタで、M部屋の二人です。
マンハッタン設定なので、英語編。
デゼールはフランス語、ラズベリーとフランボワーズは後者がフランス語なだけで同じものです。





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