Short
□O-3
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「やっと…」
ニューヨークを見下ろす、高層マンションの窓辺。
そこはもう、かつての2人が居たような地下の世界とは何もかも違う。
そして、私自身も。
外界から阻害され、蔑まれ、時には嗤い者に、時に恐怖の対象にされた…そんな私ではない。
容姿も才能も人並み以上を行く世界に輪廻転生の輪の中で生まれ変わったのだから。
記憶を、生まれ変わる前の記憶が蘇ったのはいつだったか。
その時から、ずっと片時も消えなかった望みがある。
…逢いたい。
私を、ありのままの私を愛してくれた彼女。自由奔放で、美しく、優しく…私の傍で、私を照らしてくれた。
例え彼女に記憶が無くても、間違うはずがない。
私の目の前、煌めくニューヨークの夜景を瞳に宿しながら佇んでいる。
記憶の中の彼女より、今の方が美しいなんて思わなかった。
背中まで豊かだった黒髪は、今は肩ほどで揃えられ横顔を更にシャープに魅せている気がした。華奢な躯は記憶の通り、そこに彼女のこれまでのキャリアがそうさせるのだろう、女社長としての張り詰めた雰囲気を纏っていた。
彼女が来たのは今や音楽プロデューサーであり、時に建築家で、デザイナーでもある私との契約の為だ。一族も生まれ変わり、彼女がレコード会社の社長を、兄達もそれぞれ芸能事務所やら不動産、貿易会社…など、グループ会社としては幅広く展開しているらしい。
まぁ、私がそれを知ったのはついさっきだが。
「素敵なお住まいですね。」
その言葉に、私は我に返った。
あの印象的なアメジストの瞳が、私に向けられる。それだけで、かつてのときめきが蘇った。探し求めた人が…傍にいる。
その神秘的な色に、無意識に頬に手をのばしてしまった。
「生憎ですが、」
のばした手は触れることなくかわされる。
「貴方の才能には惚れ込んでいるけれど、私、あなたみたいなスキャンダラスな人は好みではないの。」
あぁ、彼女は勘違いをしている。
私は、誰より…一途な人間なのに。
「契約が台無しになってもかまわないのか?」
随分と大人気ない質問をしてしまった。
彼女は不敵に微笑んでみせる。
「契約のために躯を売るつもりなんかないわ。でも、我が社のスタッフは自分たちが惚れた才能は全力で伸ばすの。だから、貴方がうちに入ってくれれば…私は全力で貴方をサポートするわ。さぁ、応えを聞かせて頂戴。」
応えは決まりきっている。
少しでも、彼女の傍に居たいのだから。
「今日からお前が、新しい私のボスか。」
そう応えて、右手を差し出した。
微笑んだ彼女は、私の手を握り返す。
決して覚えては、思い出してはくれなくとも。
時を超えた今も残る記憶。
ただ握手を交わしただけで、私の躯には電流が走った。
***
突発的に転生ネタ。