Short
□A-3
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豪華絢爛、そのオペラ座で。
彼女はそこに一歩踏み込んだ途端、皆の視線を集めた。
真っ白な肌に際どい襟刳りの深紅のローブ・デコルテ。その装いが彼女の妖艶さ、ミステリアスな雰囲気を一層際立たせている。
彼女は自分を見つめる面々に視線をさまよわせ…歩み寄ったのは、フィリップ・ド・シャニーだった。そうだ、その傍らにいる権利を持つものは「利用価値のある男」なのだ。地位、権力、財産…「食事」として役に立つかどうか。
手の甲に恭しく口付けた彼に、妖艶な微笑みで応えた彼女に誰もがうっとりと心奪われたはずだ。
此処には「利用価値のある男」が集まってくる。
フィリップの口付けを受けながら、きっと次の獲物を狙っているだろう。
彼女が求めるのは、私にはないものを全て備えた男だから。
今宵、彼女はフィリップを「抱く」。
「エリック、遅いわ。」
公演の後。
何も考えたくなくて、オペラ座内をさ迷った挙げ句に返った我が家から思い掛けない声。
「シャニーと一緒なのでは…」
思わず零した言葉に、彼女は悪戯に微笑んだ。
「知ってたの?それなら話は早いわ、エリック。私、『食事』はすませたから…分かるでしょう?」
華奢な指先が、私の左頬を這う。
誰の前でも、彼女はこんな風なのだろうか?
この闇の世界でさえ、私は支配者であり続けられないのだろうか。
「そのドレス、いささか派手すぎではないかな。」
何故か、そんなことを言ってしまった。
こんな干渉は危険だ。彼女がどこで何をしようと、何を想おうと私には関係のないことなんだ。
「そうかしら?フィリップは褒めてくれたわ。彼って、私に夢中なの。だから、彼の血も…何もかも私のものよ。」
私に触れながら、他の男の話をするなんて。
そんな風に考えてはならないと頭では分かりながら、心が…勝手に。
彼女は決して私のものにはならない。
ならいっそ、私が彼女のものになってしまいたい。彼女が「私のもの」だというなら、それはそのライフスタイルに決して欠かせないものだという証だ。
彼女の腕に抱かれ、吸血されるのはどんな風なのか…。
私達には、躯の関係はないのだ。
ただ、少し血を分けるだけの間柄。
彼女は、男に抱かれはしない。
彼女こそが官能の支配者なのだから。
それを知っている私はきっと。
今宵も浅ましく夢をみるのだろう。
…私が彼女を「抱く」夢を。
***
女吸血鬼ヒロインとエリック。
拍手で頂いたネタで、エリックが「彼女のものになりたい」と思うってネタはどうでしょう?とコメントいただいたので、書いてみました〜