Short

□O-6
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彼女という存在。

私にとっては、そう紅茶で例えるならば、「パンジェンシー」のような存在だ。

それは、紅茶のスペシャリスト達が理想とする味わい。それを求めて彼らはきっと多くの茶園を巡り、幾度もブレンドを繰り返すのだろう。そうして出会えるその味わいにきっと酔いしれるに違いない。繊細な渋みと深い味わいを持つ紅茶本来の美味さにだ。

数々の国を放蕩してきたが、こんな幸福な時は一時として無かった。

「エリック」

呼ばれて顔を上げると、目の前にはティカップがサーブされる。繊細な花柄のカップは新しく誂えたもののようだ。立ち上る香りは、ベリーと花の華やかな香りがした。もうすぐクリスマス、フランスではノエルともういうが、がやってくる。ホリデーに相応しい華やかな香りの紅茶は彼女が新しく揃えたものだろう。

寒い寒い冬の日。
暖かな暖炉の前で、恋人と淹れたての紅茶を楽しむとゆうただそれだけの事が、こんなにも幸福で、愛おしい時間だと初めて知った。

「どうかしら?」

「カップが?紅茶が?」

「そうね、両方」

珍しく隣に座った彼女。
この紅茶の華やかな香りが彼女にはぴったりだと、ふと思った。

「カップの柄が繊細で、私は好きだな。紅茶はまず香りが素晴らしい。この季節に相応しいし。」

微笑みながら、彼女は私を見ていた。

「あとね、意外にもミルクをいれると…ちょっと試してみて?」

彼女がミルクを足したカップを私に手渡す。促されるままに一口。

「悪くないな。非常に飲みやすい。フレイバードティーが苦手な人にもいいな。」

「でしょう?」

ミルクを足したそれは、華やかさに優しさが加わって、意外な美味しさだった。



「お前に似てるな」



「なぁに?」


華やかで、それでいて優しくて。
ころころと変わる表情や発想には飽きることなく、傍にいたい気持ちにさせられる。

そっと手を伸ばせば触れる距離で。

ティーカップを持った彼女を引き寄せることは出来なかったけれど、そんなもどかしささえ楽しんでいる自分に酷く穏やかな心地を感じて私はそっと微笑んでいた。



それが、寒い日の日常の一場面。





end  


***

午後の紅茶に「パンジェンシー」という缶の飲料があって、どうしてもネタにしたくて(笑)パンジェンシーは上でいっているように、繊細な渋みと〜ってことをいうらしい。

ちなみに、紅茶は別のノエルっぽいブレンドものを飲んでおります





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