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□コード・ブルーU
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「結弦、話しておくことがあるんだけど」

僕がお風呂から上がって、交代で先生が入るその直前。
急に少し真面目なトーンで先生が声をかけてきた。

さっきまで幸せだった僕の気持ちが、その真面目なトーンに戸惑う。

「なに?」

悪いことじゃないようにと祈りながら。

「私、トロント大に行くことになった」

「えっ、」

「まだいつからとかは詰めてないけど、決まったから」

「じゃあ‥」

「私もお風呂入るから」

それだけ言い残して、バスルームに向かう背中を見ながら声をかけそびれる。
先生がお風呂に入っている数十分の間、その言葉を反芻した。

先生がトロントに来る。

国と国。
時差とか、距離とか。
全部を取っ払って今までで一番近い場所になる。

言い様のない嬉しさが込み上げてきて、僕はどうにかなりそうだった。


「名前さん、いつからってまだなんだよね?」

バスルームから戻ってきたところを引き留めて、聞く。

「たぶん、結弦はシーズン中だからトロントには居ないと思うわ」

キッチンでミネラルウォーターを開けながら、冷静な返答が返ってくる。
でも、シーズンが終われば、トロントに戻れば。そしたら、同じ空の下。

「それに、研修医として行くわけだから、こっちより忙しいかもしれないし、結弦だってスケートとか忙しいでしょ?だから…」

何だかんだ言ってる唇をふさいだ。

「先生がどんなに忙しくても、俺が一杯逢いに行く」

取り上げたミネラルウォーターを口に含んで、もう一度口付けた。なにも言わせず、そのまま口移しを続けて飲みきれない水が喉元を濡らすのを、指先で追った。

「ゆづる、せんせぇに、戻って、る… 」

唇が離れた隙間から、そんな言葉。

「『先生』にずっと片想いして、それが叶って、それだけでも信じられないのに、名前さんはそんなつもり無いだろうけど、今度はトロントに来てくれる。」

何度目かのキスに、先に根をあげたのは先生だった。

「ベッド行きたい?」

僕の攻めに耐えられなくなったその身体を抱き上げると、ベッドルームに運ぶ。
いつも一見強気に、緊迫した現場で勤務する人が僕の腕のなかでは大人しく抱かれてる。そのギャップが、こんな姿を知るのが自分だけかと思ったらたまらなくて。

「トロント大の話、いつからあったの?」

濡れたパジャマの首もとが貼り付いて、それを脱がしながら僕は問いかけた。開かれた前あわせから肌を撫でられて喘ぎながらも、僕の質問には答えようとする。

「春頃に、トロント大からレジデントの話があるからって。推薦枠は一人だから、誰がいくかは実績次第で…」

「ふぅん」

そんな前からとか、全然聞いてない。
まぁ、選ばれるか分からないそんなときから言うのもってやつだろうし。それで選ばれなかったら凹んでたかも。

「トロントだったら、俺がいるってちょっとでも考えてくれた?」

濡れた首筋を舐めて、そこから降りてく。
高ぶった身体に余裕がなくて、胸元を吸った。主張し始めてるその突起を口に含んでなぶると、跳ねる身体と漏れる声。

肌と肌を合わせたくて、どんどん脱がせていくと、それに合わせて彼女も僕を脱がせる。

「トロントのことは、考えないようにしてた…」

僕がシャツを落とすのを見つめながら、先生はそういった。

「考えたら、色んな手術や治療が患者さんのためじゃなくて、トロントのためにってそうなりそうだったから…」

その言葉に、僕はふっと口許を緩めた。
なんだ、回りくどすぎるけど、考えてくれてたんだって。

「ねぇ、患者さんの裸に興奮したりする?」

もうちょっといじめたくて、そんなことを聞いた。

「救命でそんなの気にしてる余裕なんかないわ。」

「じゃあ、俺の裸は?元患者だよ?」

意地悪な質問を重ねながら、

「興奮してなかったら、こんなにならないよね?」

伸ばした指先の奥は、もうトロトロに潤んで、でも中は複雑に僕を締め付ける。

「ァッ、ぁ、ぁ、」

声にならない声を上げ続ける唇に、もう一度重なる。

「ごめん」

謝ったら、自身を埋め込んでいった。
あっ、ぁ、と進む度に漏れる声と震える身体を力一杯抱き寄せた。
もっと、慣らして、イカせてから繋がるつもりだったけれど、止まらない。
久しぶりに繋がった身体は、融けてるのにキツい中に締め上げられてもう弾けそうだ。繋がるだけで幸せなのに、もうすぐ、この時間が増える可能性があるんだと思うと、追いかけた時間が愛しくすら思えた。

あの時、先生が僕の担当から外れた時。
それで諦めていたら、こんな風にはならなかった。

「結弦、いつもより…」

「なに?」

「ンンっ、ぁっ、ふかいっ」

興奮が身体にも出ていて、いつもより一杯に埋め込んだそれが、彼女の奥の奥を叩いて悶えさせている。
身体を反転させても、上に乗せても全部善くて。

いつもより多目に声を上げる姿に、こっちももう限界になって。

最後は顔がよく見える正常位で組強いたら、繋がって果てた。




眠りが訪れる中。
ふたりで見るトロントの景色はどんなだろうと、そんなことを思った。




end


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