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□コード・ブルーV
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「もっとたんぱく質の取れるものを選んだ方が良かったんじゃない?」
玄関のドアを開けながら、もう一度私は結弦に問いかける。
待ち合わせ場所で落ち合って、それからスーパーに寄って、リクエスト通りの買い物。
ただ、それが「オムライス食べたい」というなんとも簡単な平凡なメニューだ。
小難しい料理は出来ないが、昨今のブームでよく言われてるサラダチキンとかそういう類いのものの方がアスリートには、そして怪我の回復を望む時には向いている気がする。
「いいの!今日だけは好きなもの食べたいんだから」
部屋に入っていく背中は、私があまりに何度もそう言ったものだから不機嫌になってしまった。
でも、心配なのだ。
身体も心も。
栄養士ではないから、詳しいことは専門外だけれど、医師としてはほおってはおけない。
「余計なお世話だったわね」
キッチンに買い物袋を置きながら謝る。
どうしたものかと少し悩んだ末、鞄を無造作に置いた結弦に近づいて、身体に腕を回した。
「ごめんなさい」
うまい言葉が見つからなくて、もう一度謝るだけになった。
結弦のしっかりした腕が、私に回されて抱き寄せる。
「名前さんが謝ることじゃない。俺も、ごめん」
触れた結弦の背中は、いつも通り、細身の癖に筋肉質だ。脚が使えなかった分、別のトレーニングをしてきていたかもしれない。
「名前さん、くすぐったいんだけど」
無意識に、確かめるように背中を撫でていた私の手。
くすぐったかったらしい結弦が、そう訴えてくるのに急いで手を引いた。
「ごめんなさい」
身体をはなして、料理にとりかかる。
この家で結弦がいるのも、キッチンから眺める姿も初めてのもので、変な気分だ。じっと見てくるような視線を気づかないふりをしていないと料理が進みそうになくて大変だった。
いつから、こんなに歳下の男に惑わされるようになってしまったのだろう。
ただの、患者だったはずなのに。
歳だって、恋愛対象じゃなかったはずなのに。
「はい」
せめてもと、多目の卵で巻いたオムライスをテーブルに置いたら、久々の二人での夕飯になった。
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