inside of a glass

□Melon Ball
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「ねぇ、名前、最近なんかいいことあったの?」

女の勘というやつは鋭い。
ただ、今日に限ってはそれは間違っている。

「むしろ、なんにも。」

信成の家にお邪魔して、お茶を囲みながら嫁と女子の会話。
大黒柱は仕事に出てる。

「でも、なんかつやつやしてない?」

「スキンケアを昔のに代えたの」

「へぇ、てっきり…」

聞きたいことは顔に出てる。
でも、生憎そっちはつやつやするようなことはなにもない。

「むしろ、そっちは悩みしかないし。アラサーになって、こんな年下と付き合うのってどうなのかなぁって、まだ悩んでるし。」

唯一、愚痴とも言えるようなそんな本音を相談できるのがこの家の二人だけだ。

「“戦力外女子”になってくのかなぁって、最近思うの」

「なにそれ?」

「20代には負けてしまう、30半ばで自由に生きてる女のことよ。」

わたしが解説してる途中で、その単語をググったらしい彼女。ふぅん、とその解説を読んでいた。

「でも、そういうところが、彼にとっては頼りがいがあるってゆうか、支えに思えるところなんじゃない?」

ただのアスリートの枠にハマらない、圧倒的な人気。
周りからのプレッシャーだったり、自分に厳しくて、上を上を見ている。

「別に、アスリートとかって関係なく、息抜きしたいってゆうか、素になりたいときってあるでしょ」

「ならいいけど」

「名前はどうなの?」

「わたし?」

「羽生くんと居て、無理してるなら、名前らしく居られないなら違うのかもしれない」

それは、既婚者ならではの意見。
付き合う以上を見据えるとしたら、そういう所だ。
もう、とりあえず付き合ってからとか、そんなうだうだしている時間はわたしには無くて、先が難しい付き合いなら、傷が深くなる前に捨てたい。棄てた方がいい。

特に、こんなに本気になったら忘れられなさそうな相手とは。

「多分、それを確かめようと今もがいてるところなの」

昔のスキンケアに戻したのも。
少し勇気を出して、自分磨きを始めたのも。

自分と結弦との、心と身体の繋がりが、この先どんな世界を見せてくれるのかを、本能的に知りたくて。


「わたしらしく…」


その言葉を繰り返して、わたしはどうであれ前に進もうと決めた。


「名前、来てたん?」

「おかえり」

大黒柱が帰ってきて、会話に加わるといつものペースに、考えすぎていた気持ちが少し解れた。



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