にじのおはなし

□変わらない物
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 雪が降っていた。
 積もるようなものではなくて、地面に着いた途端水になって消えた。
 溜息をつくと真っ白い吐息が広がったが、それもすぐに空気に溶けて消える。
 空には十六夜。
 欠けた月。
 ああ、なんとも侘しい夜だ、と思った。
 だから、とは言わないが。
 それらの事柄が少しも関係ないとも言わない。
 私はその夜。
 足元に転がる、みすぼらしい子犬を飼うことに決めた。




 ――変わらない物――




 子犬に名前をたずねることはしなかった。
 過去にどんな名前で呼ばれていようが関係ない。
 私が飼うと決めた瞬間から私の所有物になったのだから、私が名付けるのは当然のことだ。

「今からお前の名前は十六夜咲夜だよ。そして、お前のご主人様は未来永劫この私。レミリア・スカーレットだ。お前はそれだけを、ちっぽけな脳みそと、貧弱な体と、その全身に流れている赤い紅い血に誓えばいい。そうすれば、お前の命が尽きるその瞬間まで、私はお前を所有してやる」

 子犬は、なにがなんだかわからない、という顔をした。
 その愚鈍さを何故か愛らしく感じて、自然と口角が上がる。

「拾ってあげる、と言っているのよ」

 意識せず、口調がやわらかくなった。

「貴女はただ、頷けばいい」

 子犬は、咲夜は、その言葉に目を見開いた後、喉を小さく震わせて。

「……はい」

 小さな、小さな声でそう答えると、顔をくしゃくしゃにして俯いた。
 まるでこうべを垂れて服従を示したようなそれに私はどうしてだかほんの少し胸が締め付けられるように感じて、その頭を撫でてやった。
 触れる手が、壊れ物を扱うように優しげになってしまったのは、意図してではなかった。
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