にじのおはなし
□五十年目のプロポーズ
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紅魔館の当主である吸血鬼、レミリア・スカーレットと、動かない大図書館と呼ばれる魔女、パチュリー・ノーレッジは『親友』である。
関係はすこぶる良好で、半世紀を共に過ごしているが大きな喧嘩をしたこともなく、お互いのみに許した愛称で呼び合っている。
紅茶を片手に他愛もない話をしている時の二人は、他の者と一緒にいる時よりも緩んだ雰囲気を滲ませていて、遠目に見ているだけでも心地の良い温もりが伝わってくるほどだ。
繰り返す。
二人は『親友』である。
「そこのところどう思う? お姉様」
「どう思う、って……」
紅魔館地下、以前は独房でもあった一室にて。
レミリアは小さな円テーブル越しに妹に詰め寄られていた。
妹の名前はフランドール・スカーレット。愛称フラン。
最近ようやく能力を使いこなせるようになった、レミリアの自慢の妹である。
ジト目で睨んでくるフランドールにレミリアは視線を逸らしながら口ごもった。
その様子にフランドールはわざとらしく大きな溜息を吐くと、叱責の言葉を飛ばす。
「いつまで親友続ける気かって言ってるの! お姉様の意気地なしっ!」
「んなっ!?」
レミリアは可愛い妹にぶつけられた言葉でハートブレイクしかけながらも、姉としての意地を総動員して口端を吊り上げ微笑むと(多少ひくついてはいたが)紅茶のカップを口元に運びながら言った。
「心外ね、フラン。どこの誰が意気地なしなのよ。私とパチェは親友。それのなにが問題なの」
言葉の後、優雅に紅茶を口に含む。
「そんなこと言ってたら誰かに盗られちゃうよ」
「ぶばあっ!?」
噴いた。
「んびゃあっ!?」
ぴちゅーん。
顎から紅茶をぽたぽた滴らせる幼女(外見)と顔面をびちゃびちゃにされた幼女(外見)の完成である。
「ふふふふふふふらんっ!?」
「目が、目がああああっ!」
「ふらあああああああんっ!」
〜少女錯乱中〜
「もう一度言うよ、お姉様。いつまでこのままでいるつもりなの?」
フランドールはばっちいとでも言いたげにタオルでしつこく頬を拭きながら赤くなった目を細めてレミリアに問い掛ける。
「……」
レミリアはその様子に、娘に汚物扱いされる父親が抱く悲哀とよく似たものを感じながら無言を返した。
しばし続く沈黙。
痺れを切らし、先に口を開いたのはフランドールだった。
「……言い直すね。いつまでパチュリーを待たせるつもりなの、お姉様」
「ッ!?」
見て取れた明らかな動揺に、フランドールはニヤリと微笑むと、追い討ちをかけようと言葉を続ける。
「好きなら好きっていえばいいじゃん。かっこわる」
「フランに言われたくないわ!」
「っ!?」
妹には基本的に甘いレミリアだが、言われっぱなしで黙っていられるほど寛容ではない。
それに、常々思っていたことでもあった。
「自分だって咲夜とどうなのよ!? 見ていてもどかしいのよ!」
「なああああああっ!?」