いちじのおはなし
□取り残された姉と、死にぞこなった妹
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「あの、季咲さん」
声をかけられて首だけで振り向くと、名字で呼んでくることからもわかる通りあまり親しくないクラスメイトが三人立っていた。
「ちょっといいかな?」
遠慮がちに声をかけられたので、なるべく優しく聞こえるように、なに? と返事をすると、先程数学の時間に前回の小テストの成績が悪かった生徒に配られたプリントを目の前に差し出された。
「どうしてもわからない問題があって……次回までに全問埋めて提出しないといけないし、間違ってたら再提出になっちゃうから」
「季咲さん頭いいし、教えてくれないかな、って」
こういうことは、たまにある。
そのたび少し、困ってしまう。
「ごめん、私人に教えるの苦手なんだ。答えは教えられるけど、解き方は教えられない」
私は人に物を教えるのが下手だ。
まず、どこがわからないのか、なにがわからないのかがわからない。
自分自身は家族関係以外では、一度たりともなにかに躓いたことがないからだ。
嫌な奴だと思われやしないかと思ったが、聞きに来た三人はすぐに納得してくれて、それなら自分達でもう少し悩んでみるからどうしようもなくなったらよろしく、と笑って去っていった。