いちじのおはなし
□抱きしめたのは
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「……」
コンコン、とノックして、ガラリと扉を開ける。
夢見は、ベッドで上体だけを起こして、茜色の差し込む窓の外を眺めていた。
「……夢見」
声をかけると、夢見はゆっくりと振り返り、私の顔に視線を移した。
もともとは、伏し目がちで黒目がちな瞳を持った子だった。
だけど今は、右目だけが色を失い、白濁としている。
頭を強打した影響で、夢見は右目の視力を失った。
「なにしてたの?」
問いかけながら扉を閉めてベッドの傍に寄り、椅子に腰かける。
「退屈だった? ……だったよね」
なにせ、一人では散歩をすることすら困難なのだから。
手を伸ばし、布団越しに夢見の足に触れた。
すると夢見は、動かない足の代わりに、ビクッと肩を震わせる。
夢見の足には麻痺が残り、もう思い通りに動かすことが出来ない。
リハビリをしても、効果はほとんど期待できないらしい。