妄想語り

□プロローグ
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 極東のある山村





風が強く吹いている。

周り一面に白い灰がまきあがる。

生命の感じない灰の海に一人の少女がただ立ち尽していた。

まきあがる白い灰は少女を拒絶するように吹き荒れるが白い灰は決して少女には近付くことはない。


曖昧で憂い帯びた瞳でなにを見ていたのか………










イギリス清教にある十三の騎士団の一つ、先槍騎士団は、『何者よりも早く敵陣を視察する』任務に就いていた。



今回の『敵陣』とされるのは極東の島国、その山間にある京都の小村。

『異常なまでに膨れ上がった魔力の流れ』の正体を突き止め、害意があれば排除せよ、というお決まりの任務だった。



―――京都のある山村から連絡が途絶えて六時間。

―――様子を見に行った警察官が行方不明になって三時間。

『問題』の起きた山村は壊滅状態だろうとその場の誰もが思ったが、この様な自体は異端を滅する騎士団には珍しい事ではない。

現に、支給された装備も通常の施術鎧に十字槍のみで、お偉方も楽観的な態度が明確だった。





だが、気になる事がある。



山村からの電話を使った最後の連絡には、以下の内容が含まれていたらしい。





『助、け――。あれは――人間なわけな―。あれは    』



もちろん、誰も信じるわけなかった。


英国国立図書館に古くから記録だけ残る『ある生き物』

誰もその姿を見た者はおらず、空想のなかにしかいないとされている『ある生き物』

もし、存在するなら、世界が崩壊するとされる『ある生き物』



戯言と一蹴して否定するのは簡単だが、騎士達の間に嫌な重圧がのしかかった。





カインの末裔
吸血鬼が存在する、と。





騎士達は自らの不安を一笑し、しかし消えない不安に駆られながら山の草木をかき分ける。

そうして目的の山村に到着した彼らは、目の前の光景に心臓が握り潰された。





辺り一面には、真っ白な灰。


―――吸血鬼は死ぬと灰になる





時代から取り残されたような廃村は吹雪のような『白い灰』に覆われている。

しかし、彼らが驚いたのは死骸であれば十や二十では足りないだろうという『白い灰』のことではない。


灰の吹雪の中心に立つ一人の少女。

歳は五歳か六歳に満たない、東洋人特有の黒髪を持つ少女。

その愛くるしい顔立ちを見てもなお、騎士達は止まった心臓を動かす事さえできなかった。

村中を覆い尽くす『白い灰』の地獄の中で、傷一つさえ存在しなかったからだ。

灰が渦巻くなか、少女の周りには聖域のごとく灰の侵入を許さない。

まるで、灰が死してなお恐怖に怯えているように。


騎士達は動けない。





「わたし―――」

少女は言う。



「―――――わたし、またころしたのね」


まるで、それが自分の日常だと言うように。 
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