色々、置き場
□『空に、願う』
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「七夕?」
「滋さんが用意してくれるのか?」
目を輝かせたのは、楽しいこと大好きな西村。その肩に肘をのせた北本も、表情を見るに乗り気のようだ。
「ああ、近所の家から笹を貰ってきてくれるらしいんだ。それで、飾付けとか…友達も一緒にっ…て」
語尾が小さくなってしまうのは、なかなか治せない夏目の癖。誰かに何かを、お願いしたり誘ったりは、どうして苦手で、未だに自信が持てないのが無意識に出てしまう。
幼い頃に孤児になって、親戚をたらい回された過去が、夏目にそうさせる。これでも、だいぶマシになったと思うけれど――
「わー、行く行く。今度の日曜だろ?」
全く気にしない西村が、最初に声を上げる。
「うん」
夏目が頷くと、西村は北本を見る。
「お前も行くだろ――、って、今度の日曜はお袋さんの買物に付き合うんだっけ?」
「ん…、けど別にいつでもいいみたいだったから、夏目の方に行くよ」
それを聞いた途端に、夏目は心配そうな表情を浮かべる。
「いい…のか、北本」
夏目の表情を見た北本は、やれやれというような苦笑と共に、明るく言う。
「あのな夏目、普通は高校生なんて、親より友達を優先するもんなの」
それに西村も乗っかった。
「そうだぜぇ、夏目。お前は気にし過ぎ」
そう言って、夏目の額にデコピンする。
「てッ、何すんだよ西村!」
「わはははは」
額に手を当てた夏目を見て、西村は豪快に笑う。その笑い声が廊下にまで響いて、別のクラスの田沼がヒョコッと顔を出した。
「なんだ、楽しそうだな」
「あー、田沼じゃん。なあなあ今、夏目からさぁ」
そう言って、夏目の七夕の誘いを田沼に話す。そして悪びれた様子もなく誘いをかける。
近くで見ていた夏目は、自分もあんな風に出来たらな…と、ちょっとだけ羨ましく思った。
「俺も行っていいのか?」
一応、夏目に確認するあたりが、律義で真面目な田沼らしい。
「もちろん」
夏目が答えると、田沼は頷く。
「だったら、喜んで行くよ」
キーンコーンと、昼休み終わりのチャイムが鳴る。
「あ、じゃあ時間とか…あとで教えてくれよ」
「あ、俺も戻るな」
クラスの違う田沼と北本が、揃って教室を出ていく。
「楽しみだな」
二人を見送っていると、言葉通り楽しそに西村が言った。
「そうだな」
夏目が答えると、西村はじゃあなと自分の席に戻って行く。
夏目も席に着きながら、窓の外に目をやる。梅雨の空は雲がかかって、どんよりしていた。当日、確率は低いだろうけれど、晴れるといいなと夏目は思った。